共に背負うのは罪か罰か枷なのか











獏。ウマ目(奇蹄目)バク科。
いや違う、こいつが言う獏は動物園にいる可愛らしい生き物を差しているのではない。おそらく龍や鳳凰などと同じ想像上の動物の方だ。俺は別にそういうのを信じている訳ではなかったが、いないと頭から決めつけた事も無かった。

「医者のお前なら判るだろう?この傷が致命傷に値する。いや、生きてるのが不思議なレベルだって」

何を言ってるんだこいつは。確かに背中の傷痕は動物の爪によるものに一番近い、だが熊のものかもしれない。いや、こいつの場合傷痕自体が偽物かもしれない。実はタトゥーでしたとかそんなドッキリが待っているとも限らない。
この傷が本物でない可能性を思いつくままに挙げては打ち消す愚かな行為を頭が勝手に続ける。それほどまでして今この目で見るものを信じたく無かった。

「信じられないって顔に出てるぞ」
「信じろっていう方が無茶だろ・・・」

背中を向けたままの奴に近付く。奴の手はは脱いだシャツを持ったまま前を隠そうともしない。
傷痕に触れる。一番深かったであろう傷の上部に指の腹を押し付け、そのまま沿うように指を下ろすと、僅かに肩が撥ねた。それに気付かぬ振りをして触診する様に他の傷も同様に一本一本丁寧に撫で下ろした。
全部、本物だ。

「無理って言わないんだな」
「は?」
「別に信じて欲しいって訳じゃあないんだ。ただ、俺にとっての真実を話してるだけだから。聞かなくてもいい、喋らせてくれ」
「だったら耳を塞いでてもいいのか?」
「俺に見えない場所だったら全然構わないさ」
「嘘吐き」
「あぁ?」
「聞いて欲しいんだろ?お前いっつもそういう所で臆病だよな、いいよ聞いてやるよこの現実主義の俺がな!病院なんて心霊スポットで働いてりゃそっち系の話なんざごまんと聞いてるんだ、一つ二つ増えたって変わるかよ。第一人の夢の中に何度も何度も出てくる奴が今更戸惑う事か?」
「・・・」
「今すぐ信じろっていうのはちょっとアレだけど頭ごなしに否定はしねーよ」
「聞いてくれるのか?」
「あぁ、その前に一つだけ」

持ってたタオルを広げ肩に掛ける。

「服を着ろ」















「獏に出会ったのは夢の中だった。獏はとある人物の夢の中に捕われていて身動きが取れなかったんだ。だから波長の合う人間を探して夢の中から助けを求めてたんだ」
「それが、お前って事か」
「あぁ。俺は獏の指示に従って獏を捕えていた男を探しだしたんだ。でも、俺がその男に会った時にはもう全てが遅すぎたんだ」

留学先の知人のお陰で獏を捕えた男に会う事が出来た。しかしその時には既に男は獏を夢の中から引きずり出すことに成功していたんだ。男は俺の話になど耳を貸さず、獏は人間への恐怖で自我を無くし、凶暴になっていたんだ。
それに気付いていた男が俺と獏を同じ檻に入れ、俺が獏を戻すのなら止めることはしないと言った。結果はこの有り様だ。獏に攻撃された俺は瀕死の状態になった。まぁ、そのお陰でそこで正気を保つ獏と最後の邂逅を果たせたんだ。
獏は泣いていたよ、自分を助けに来た人間を、傷つけてしまったってな。俺は別に死んでも構わなかったんだが・・・獏が助けてくれたんだよ。夢に戻れず、現実なんかで生かされるのなら命を俺に与えても構わないって言ったんだ。拒絶出来なかったよ、獏が人間にここまで虐げられたのに、人間である俺を助けようとしたんだ。その時の副作用って事になるのかな?俺は命とともに獏の能力を受け継いだんだ。夢を渡り、夢を奪い、夢を創る力をな。

「禊は、獏の為だ。獏の命を貰った俺に出来る事は、こうして朔の日に人の手の入っていない水を与えることしかできないんだ」

そうだ、こいつはいつも酒は飲むが、煙草を吸った所は見た事が無い。酒に関する事以外、やけに自分の身体を大事にする奴だと思ってはいたが、自分の為じゃなかったんだ。
獏の為、だったのだ。















「よう」

また出たな迷惑野郎。運転手務めたのは俺の勝手だけど話に異常に疲れたんだからちょっとは寝させろ。

「一つだけ言っておこうと思ってな、これは信じても信じなくても構わない」

さっき一緒に言っとけよ。わざわざここに来てまで言うことか?

「いや、ここに来ないと言い辛かったってのが本音」

言え。そして寝させろ。

「お前の夢に干渉したのな、これが二回目なんだ」















起きた。そして寝られなくなった。















睡眠不足と正夢と



「おい・・・今日夢の中に出たか?」「黙秘権を行使」「(・・・今日は本当に出たんだな)」