朝起きたら首が痛い。そして隣に奴がいた。 断じて違う、俺とこいつはそういう関係でもないし酔った勢いでとかそういうのでもない。手を出していないし出されてもない。 寝起きとは思えない回転速度で空回りしている俺の頭が、状況把握と同時進行で自分への言い訳を考え始めていた。 お互いに服は着ているし変に乱れてもいない。ちなみに俺はパジャマ、奴はワイシャツにスーツのズボン。上着は無いがネクタイは輪を作ったままドア付近に落ちていた。首が痛いのは枕を取られたから。しっかり抱きしめられた俺の低反発枕・・・無残な形が残らなければいいが。 「ん、んぅ・・・」 艶めかしい声を出すな起きるのか起きるよな頼むから起きてくれそしてさっさと自分の家に帰れ。というか我が家のセキュリティはどうした合鍵渡してないし暗証番号も教えてないしピッキングもこの家では出来ない筈だ。 「あと、十分・・・」 そうかその間に俺に味噌汁作れというのだな。いい度胸だ昨日の残りにしてやろうかそれともレトルトの方が早いだろうな湯沸かすだけだし。ああ残念だ昨日はオペで夕食は外だしインスタント味噌汁もウチには存在しない。長ねぎとわかめとあぶらあげ・・・は賞味期限が昨日だが使ってしまえ。 「お早う」 「・・・おはよう」 こういう朝も三回目ともなると流石に慣れてきた。 しかし慣れちゃいけない。 この守銭奴は、悪夢だろうが何だろうが夢を作る。で、その作ったり時には買い取ったりした夢を他人に売る。 現実主義者な俺は夢なんて精神安定剤にもならんと鼻で笑ったりもしたが、精神科医に言わせると繰り返し見る夢は日常に少しずつ染み出ていくらしい。 アレも最高の、もとい最悪な悪夢を作った次の日には調子が崩れるらしく、時折隣の部屋、つまり俺の家を訪ねる。訪ねるというと聞こえはいいが、実際は押しかけに近い。 年に数回あればいい方な丸々一日の休日を穏やかに過ごそうと思い立った途端潰されたり、十数時間もの長丁場の手術を終えてくたくたになった身体の最後の力を振り絞ってたどり着いた自宅に大の字になって倒れられた日には警察を呼びたくなった。 だがインターホンを鳴らす時はまともだ(当然だ)。留守中に入られるのも(不法侵入だが)実はまだましな方だと最近身をもって知る破目になった。 最も恐ろしかったのは、居留守を使った時だ。 一度、真夜中にインターホンが鳴ったので訪問者を確認して即座にドアチェーンをかけ、寝室に閉じこもりそのまま朝まで寝た筈なのに。 寝ぼけ眼でリビングに行くと、二人前の朝食の支度がされていて、定位置に奴が座って寝ていた時はマジで怖かった。 食事に毒が入っていなかったのが不思議だった。殺される理由も心当たりも無いけど(むしろ殺意を持ったのは俺だ)。 それ以来俺はどんなに眠くてもインターホンが鳴って動けたらドアを開け、奴を出迎えることにした。知らない間に家捜しされても困るので、自分の目の届くところに奴の居場所を確保させた。 甘やかしている自覚はある。だが、甘やかさなければいけない時があるという事を知ってしまった。 |