「いらっしゃい、ちゃん」 先週は粉薬、その前はドリンクに混ぜて。今日は錠剤。週に一度、今日も男は致死量の毒を少女に盛る。 少女はその毒に対して正常な苦しみ方をしてくれるが決して死なない。どれだけ苦しんでも吐いても最期には治癒の為に寝りにつき、最低一時間は目を覚まさない。微動だにしない身体は何をしても起きることはない。何をしても。 手に入る劇薬は一通り試してみたが致死量以上を無闇に与えるつもりはない、趣味とはいえ人を殺せる毒だ。難しくはないが手に入れるのは面倒だし、そう安くもない。彼女の為に様々なものを手に入れたが同じ反応を繰り返す少女に飽きていたのも本当で、そろそろ別の方法で彼女を傷つけたかった。 横には苦しみ抜いて、ようやく眠りについた少女。テーブルを挟んだ二人掛けのソファに横たわる彼女の服装は、救いを求めてここに来る少女達と然程変わらない。あえていうなら特徴が無いというところだろうか。着崩すこともせず華美に着飾るつい先日衣替えをしたという白地に青のラインが映えるセーラー服は着崩されておらず、華美な装飾も見当たらない。胸元に広がる真紅のスカーフが致命傷の様に見えて、思わず零れていない命がそこに在る事を確かめる為に胸に耳を押し付ける。 「何をしても起きないのなら、何をしたっていいんだろう?」 うっとりと笑う彼の笑みを見る者はいない。臨也は上へとずらし、白磁の首筋に自らの舌を這わせた。 ベッドの上で起きるようになったのは、これで何度目だろう。 時には強引に、時には気付かぬ間に毒を盛られて、床の上で意識を失った事もある。当初はそのまま放置されていたが最近になって彼が運んでくれているようで、起きた時にベッドの上に寝かされていることが多い。 暫くして、同じ毒を盛られている気がした。 この体質を疎く思った事はあれど、この身体が心優しい彼を少しでも救う手段になるのなら。 そして、目の前の酷くて寂しい人を慰められるのなら。 「今日は何もしなかったんですね」 ソファに置き去りにされた鞄を取り、玄関に向かう前にちらりと臨也さんの方を見て、ぽそりと呟いた。 臨也さんは珍しく驚きを表情にだしていた。いつもならあの人を見下したような笑みを浮かべて見送るのに。何かあったのだろうか。 「ちゃん、今、なんて?」 彼が人の言葉を聞き返すなんて珍しい。だが、自分が何を言ってしまったか思い出した今、ここから逃げ出さなければ。 「待て、!」 逃げられると思った。急いで靴を履いた私はドアを開けようとしたノブごと彼に手を掴まれる。 「今日はって言ったね、今。薬が効いていなかったんだ。それとも飲むふりをしていたとか?あぁ、シズちゃんの血縁って事は薬が聞きにくい体質って考えるのもアリかな?」 可能性をひとつずつ読み上げると、最後の最後にの肩が僅かだが強張った。どうやらアタリらしい。 「同じ睡眠薬を使い続けたのが仇になったのかな?。つまり君は、今まで俺に眠っている間に何をされていたが知っていて尚、ここに来続けてていたんだ」 カタカタと小刻みに震えるの手をドアから引き剥がし、強引に手を引き部屋の中へ連れ戻す。先程までが横たわっていたベッドにを放り、自分も上に乗り掛かった。 「今まで平気だったって事は、今から同じ事をされても平気だってことだよね?」 彼女の白い喉が上手く息を吸えずにヒューヒューと鳴っている。言葉を発するために開けられた唇に音が乗せられる前に喰らい付いた。 「ねぇA子聞いた聞いた?あの話」 「聞いたわよB子、狼から王子様を守ろうとしたお姫様が狼に恋しちゃったんでしょ?」 「素敵よねぇA子、お姫様と狼の恋なんて普通のお伽話じゃありえない!」 「仕方ないわよ、狼は顔が良いし王子様はお姫様に守られているなんて知らなかったのだから!」 「あら、じゃあ王子様とお姫様の物語よりハッピーなエンドになるのかしら?」 「「かしら、かしら、ご存知かしら?」」 |