(No.284 ボロ布のようなプライド ←) 「今日、来たよ」 『そうか・・・思ったより早かったな』 「全く、そんなに心配なら連れていけばよかったろうに。楓ちゃんも喜ぶだろう?」 『いや、俺にそこまでバニーを拘束する権利は無いさ』 「心配なら楓ちゃんをこっちに住ませるという手もあったんじゃないか?」 『・・・』 「私という布石を置くほど心配なのに、なんで遠ざける」 『』 「あ?」 『お前だから、頼むんだ』 「・・・同郷のよしみで理由は聞かないでやるよ」 『うるせぇ』 電話越しに痛いところを突かれた虎徹が渋い顔をしたのでちょっと笑った。 彼は今、シャワーを浴びている。 「しっかし、バーナビーの為とはいえ、ちょっとばかし荒療治すぎじゃない?」 『言われなくともわかってるさ』 「酷いオトコだねぇ。中途半端な優しさに寂しがりやのバニーちゃんは耐えられるかな?」 『ま、さかお前もうバニーを「二回目の男に盛るかボケ!今シャワー浴びてるよ」 『そうか・・・ってお前ドコ寝るんだよ!』 「仕向けるならそこまで考えろ!まぁ・・・私の匂いでも安心するみたいだな、部屋に入った途端寝たそうにしてたぞ」 『お前と会うの二回目なのになぁ・・・俺なんて懐かれるまでにどれだけ「私はおっさんの加齢臭と一緒にされたみたいで複雑だよ」 『・・・』 歳の離れた同郷の馴染みはからかいがいがあって楽しい。 とてもじゃないがシュテルンビルトを救った元ヒーローとは思えない。 しかし、彼の気取らない所、誰にだって真っ直ぐ向き合うその姿は、嫌いじゃない。 「手は尽くすさ、私だって頼られて嬉しくない訳じゃない」 『お前がいて、よかったよ』 「次来る時はいい酒見繕って来いよ」 『・・・あぁ』 電話を切ると、途端に部屋が静まり返った。 は唯一音のなる浴室へ足を向けた。シャワーにしては長すぎる。 「・・・まさか寝てないだろうな」 バーナビー、と名を呼ぶ。 流水音はあるが、肝心の返事が無い。 ドアを開けると、バーナビーは湯気の向こうに立っていた。目が開いているので寝てはいないようだ。 「バーナビー?」 もう一度名を呼ぶも、反応が無い。流石のも焦りを覚える。 「おい、バーナビー!」 湯がかかるのも構わず、はバーナビーの肩に手を置き強引に自分の方へ向かせた。 焦点の合わない瞳が、ゆっくりとを捉える。濁っていた翡翠色が、段々澄んでいく。 「、さん?」 「起きてるなら返事をしてくれ、溺れてるかと思った」 「すみません、ちょっとぼんやりしていて」 「タオルとガウンは此処に置いておくから。あと十分で出ないと私入るからね」 後ろから抗議の声が聞こえたが背を向けて聞き流し、キッチンへ向かう。 バーナビーがリビングに現れたのは本当にきっかり十分後だった。虎徹が置いてったシャツやらパジャマが役に立つとは。サイズは大丈夫そうだ。頭を拭きながら憮然とした顔で此方へ向かってくるが、今ひとつ覇気が感じられない。 「さっきの発言は女性としてどうかと思いますが。もう少し慎みを持っても良いんじゃないですか貴方」 「ははっ。それだけ言えれば充分だ。夜遅いから夜食は作ってない。ミルク温めてあるからそれ飲んだら先寝ててくれ。寝室はあっち」 寝室の扉を差し、パジャマを持ち浴室へ向かう。 「さん、僕はソファで良いですから」 「あぁ、ウチのダブルベッドだから」 「そういう問題ではありません!」 「寝相悪くないし、いびきもかかないが・・・?」 「だからそうじゃなくて・・・」 「家主の言うことを聞け。今すぐ虎徹に電話するぞ」 笑顔で言った最後の脅しが聞いたようだったが、あれで口を噤むと言うことは、相当依存していたことが伺える。 全く、あの男は手懐け過ぎだ。 傍に居る事しか出来ない。私達は道標になどなれない。 (→No.100 両手を伸ばして届く距離) |