普通の女子高生と若き日の情報屋











岸谷新羅は知ってしまった。
三日前の放課後、夕日に染まる空き教室で、人目を憚るように抱き合う二人の姿を見てしまった。
彼がそんな時間まで学校に残っていたのは教師から薬品を貰い受ける算段をして遅くなっていたからなので、本当に偶然だった。座っていたが後姿は間違いなく臨也で、彼の前に立つ女生徒は新羅と同じクラスの。
もの静かで内気な彼女が、実は月下美人という事実に気付いている人間は数少ない。
慈しむ、とは今の彼の姿を表すのだろう。普段から必要以上に饒舌な彼が、今は何も言わずに浅葱を優しく抱き寄せている。彼女は彼女で、幸せそうに微笑んでいた。臨也の頭を包み込むように両手を回し。
臨也は後ろを向いていたし、彼女は目を瞑っていた。僕は反対側の廊下から見かけたので、きっと彼らは気付いていない。
折原臨也の大事な人間の存在を知っていしまった人間の事を。





「彼女、セルティ程ではないけどではないけど可愛いね」
「さあ、誰の事?」

臨也が彼女の事を隠している訳など一目瞭然。しかし知っているとだけ伝えたかった私は、の事を一度だけ話題に出した。臨也はとぼけていたが、理解してくれたようだ。

「辛いね」
「解ってるならわざわざ言わなくでくれよ、本当に辛いんだ」

自分も、目の前の男も、卒業したらまともな職につくつもりはない。
特に臨也など今でも敵が多いのに。折原臨也に大事な人間がいるなんて知られたら、彼女の身の安全など何処にもなくなる。

「忘れてくれ、新羅」
「そんな勿体ない。君があんな顔を向ける人間なんてそういるもんじゃない。彼女の為に誰にも言わないけど、あの光景は忘れるには少々美し過ぎた」

臨也が珍しく悪意の無い笑みを浮かべる。きっと彼女の事を思い浮かべているんだろう。

「きっと俺が彼女を何処かに閉じ込めてしまっても、彼女は俺を許して、幸せそうに笑ってくれるんだ」

それを知っていて、そうしないと言い切れる自信が無いから、俺は彼女と隠れて会う事しか出来ないんだ。
彼はそう自嘲気味に呟いた。此処まで弱気な臨也も初めて見た。





彼がくれる愛なら、きっと私は全部受け止められる。
臨也に内緒で、昨日彼女とクラスで会話していた新羅の聞いた、彼女の言葉。

「彼は頭がいいから。今、私の為にと思ってしてくれていることが最善策なの、解ってる。私がそれを寂しいと思うとても我侭だわ」
「それでも、君は後悔していないんだね」
「愛してるの、後悔なんて出来無いわ」

別の方法があるかもしれない。そう言いたかったが、新羅は提案できる別の方法を思いつかなかったし、彼等の絆の深さを知らな過ぎた。





この恋の行く末など何処にもないのから見ない振りをさせてくれ、もう少しだけ歩かせておくれ。