ブーゲンビリアの恋 1











「・・・」

、二十九年生きてきて、初めて人を拾いました。
しかも有名人。

「バーナビー・ブルックスJr・・・」

今やシュテルンビルトで知らない人間はいないだろう元KOHが、何故私の部屋の前に居るんだ。
というか他のマンションの住人に見られてたらあっという間にスクープになるか会社の人間が回収するだろう。 よく見つからなかったな。
彼のバディはつい先日退院してその足で帰郷しているので、呼び出しても時間がかかる、というか数年ぶりの親子水入らずの時間に水を差すほど野暮ではない。

「何でまた、私のところに・・・」

正直な感想は、それだ。
彼との面識は一度だけ。
同郷の歳の離れた友人であり店の常連でもある虎徹に紹介され、形ばかりの挨拶と名刺を渡した位で、それ以降一度も接点がなかった。

「・・・とりあえず運ぶか」

彼がもたれかかっているのが私の部屋のドアなので、放置して部屋に入ろうにも入れない。
鍵を開け、彼を抱きかかえ部屋に入る。
流石にヒーローをしてただけあって、筋肉質の身体は重かった。
残念ながら、独りでバーを経営する身なので、思い荷物を運んだり酔っ払いの介抱で、そこらのお嬢さんよりは力はある。勿論重いが、運べないこともない。
とりあえず彼をソファに転がしキッチンへ向かう。
目当てのものを手に持ってリビングへ戻り、ソファの横のローテーブルへ腰掛けた。

(・・・本当だ、睫毛が長い)

彼自身と会ったのは一度だけだが、虎徹の話に何度も出てきているので、彼の事はある意味ファンより知っているのではないだろうか。実物をまじまじと見ながら、虎徹の話を朧気ながら記憶の底から救い出す。
彼の綺麗な顔を眺めていたら、瞼が持ち上がり、翡翠色の瞳が見えた。

「起きたか」
「・・・此処は、貴方の部屋ですか?」
「私の部屋の前にいたからね、とりあえず中に入ってもらったよ」
「・・・すみません、お手数おかけして」
「アルコールの臭いもせず目立った外傷も無かったから問題ない。まぁ、あと五分起きるのが遅ければ君は死んでいたけどね」
「死んでいたって・・・貴方、何をしようとしたんですか?」

さらりと紡いだのに反応が早い、流石元ヒーロー。

「これを」

コップの中に入っているのはどうみても只の水。
疑問に思うバーナビーには真面目な顔のまま言葉を続ける。

「兎は水をかけると死ぬんだろう」
「どこから聞いたんですかそんなデマ」
「虎徹」
「全く、あの人は・・・」
「あと、兎は寂しいと死んじゃうとも聞いたよ」

にっこりと笑いながら目の前に腰掛ける彼女が、その二つを信じていないこと位笑いを含んだ口調から容易にわかる。
此処に来た理由を知って、敢えて言っているのだ。

「バニーちゃん、君は何故此処へ来たんだい?」
「わかってて言ってるでしょう、貴方」
「嫌だなぁ、私と君は会うのは二回目だった気がするが?そんな私に君の考えなどわかる訳がないじゃないか」

あぁ、本当に質の悪い。

「言わないとわからないよ、バーナビー」

優しいのか優しくないのかわからない。それでも、初めて会った瞬間、似ていると思ったのだ。

「暫く、此処において貰えませんか?」





「仕方ないなぁ」そういって笑う彼女はやはり、彼にとてもよく似ていた。

(→No.343 君が迷う迷路)