正面からカツカツと、規則正しいヒールの音が廊下に響く。マフィアのアジトには似つかわしくない音だが、ボンゴレの屋敷では日常だったりする。 近付いてきた音が止んだ。音の主は廊下の端に寄り、雲雀に向かい頭を下げている。 「」 「はい、何でしょうか」 顔をあげた女性と雲雀は十年来の知人だ。それこそ今のボンゴレファミリーの守護者達が十代目の元に集う前からの。元風紀委員でもある彼女は、風紀財団には属さないが、ボンゴレファミリーの一員だ。彼女を縛るつもりは無かったが、断られた事に少し驚いたのは記憶に新しい。 委員会の紅一点であった彼女は、女生徒からの相談が絶えなかった。争いを好まない性分ではあったが、風紀委員として申し分無い強さを兼ね備えていた。だからこそ雲雀も、彼女の存在を許したのだ。赤ん坊にも目を付けられた彼女は、現在雨の守護者の補佐に着いている。 手を取り腕を掴む。女性特有の柔らかさはあれど、筋肉量は群れて着飾るしか脳の無い女達とは比べ物にならない。野球バカで剣道バカの男のデスクワークを一手に担っていると聞いたが、身体は昔よりも確実に引き締まっていた。それでも、力を加えれば折れてしまいそうだと思考が矛盾している。 「雲雀さん、どうかされましたか?」 「細いね、脂肪もちゃんとあるのに」 掴んだままの手を持ち上げながら引くと、は綺麗にターンを決め、雲雀との距離を一気に縮めた。先程の台詞に怯む事も腹を立てる事もしない彼女は、困ったように眉を寄せて笑う。 「男性との生物学上の違いもありますが、これ以上の鍛錬は止められているんです」 「ふぅん」 誰に、とは問わない。ドレスコードが設けられるマフィア同士のパーティーに、は華として、ボディガードとして綱吉の横に立つ機会が多い。仮にもマフィアのボスにエスコートされるのだから、最低限の見目は整えておきたいらしい。 「ツナさんも意中の女性を連れて行きたいでしょうけど、一般人にあの場所は危険ですから」 繋がれたままの手は、何時の間にか指が絡み合っていた。もう片方の手はの腰に収まっている。 「やっぱり細いね」 も雲雀に倣い空いた左手を肩に置く。繋いだ右手の力が僅かに強くなった。 「お腹は触らないでくださいね、もう少しで腹筋が割れそうになっちゃったんですよ」 「ワォ、すごいね」 キスをするかのような距離で、ダンスを踊り始めそうな体制で淡々と会話を続ける二人。 一方、それを見守る影が三つ。 「一体何やってんだ?」 「これで付き合ってないから不思議だよね」 「こういうトコだけは十年前から変わらねーんだな、あの二人」 廊下の角に潜む影は三人の男だった。雨と嵐の守護者、そしてボンゴレファミリーのボス。 「でも、彼女には感謝してるんだよ。さんのお陰で山本君のデスクワークも捗るし、雲雀さんがこっちにも定期的に顔を出してくれてるんだ」 雲雀との言動に伴わない感情。これが片思いであれば喜んで恋の成就に力を貸すのだが、二人共無自覚の上現状に満足しているとあれば外野としては動きようがない。恋仲にならない二人を見ていて本気で首を傾げる事も煮え切らない関係に背中を押すのを通り越して蹴り飛ばしてしまいたい衝動に駆られた事も数えきれない。だがこの二人の場合、下手に動いてこの微妙な関係を変えてしまえば、万が一の場合、周囲に及ぶ被害が計り知れない。 第一、変えられるものならとっくに変えている。この二人の関係は十年前からずっとこのままなのだ。 「ねぇ、そろそろ角の彼等を噛み殺したいんだけど」「雲雀さんのボスと同僚で私の上司ですよ?」「群れるのは嫌いだ」「それは知ってますが・・・」 |