彫刻科と日本画科











一心に木の塊を彫っている彼の目には、迷いがない。
それこそ木とひとつになるような。誰も入り込めない雰囲気は、高みを目指す者しか醸し出せない。
もうだいぶ前から彼の背中を見ているが、飽きることはなかった。
日が暮れる。視界が暗くなる。そこでようやく自分がどのくらい長い間打ち込んでたか、彼はようやく気付くのだ。

「森田さん、こっちでお茶飲みませんか?」

緊張の糸がぷつんと切れた音を聞いた私は、ようやく彼に声をかけた。
そんなに大きな声ではないけど、木を彫るノミの音が無くなった部屋に自分の声はよく響く。

「おお!!!いつからいた!」
「ちょっと前からですよ」

ニコニコと憎めない(というか私は憎んでいない)(誰かに憎めないと言われ、それが彼らしいと思って使っているだけだ)笑顔を私に向け、こちらに来た。

「一緒にお茶飲みませんか?」
「飲む!」

森田さんは片付けを手早く終わらすと、最低限の道具だけ持って先に歩く私の横に並んだ。

「今日は緑茶にしますか?」
の入れるお茶は何でもウマイから好きだ」
「それともアップルパイに合わせて、紅茶にしますか」
「ナヌ!アップルパイだと!?」
「えぇ」

こういう時、子供の様に目を輝かせるこの人は、本当に自分に正直に生きているんだなぁとつくづく思う。
芸術家、とまではいかないがしれないけど、何かを創る人間の目は、こうやっていつも輝いている。


「何ですか?」
「緑茶がいい」
「わかりました。美味しい緑茶をいれますね」
「おう」

会話が終わり、静寂が訪れる。
私と彼との間にはよくこういった時間が訪れるが、私が気付く限り、彼はこの時間を不快に思っていないようだ。あの、大人しくしているのが苦手な彼が。
私もそこまで人と放すのが得意でない為、こういう時間が許されることは、少し嬉しい。


「はい」
「帰り、送る」
「・・・はい」

傍若無人で有名な彼は、実はとても優しい。上手く伝わらない時もあるけど。
それを知っている自分は、とても幸せ者だ。だから、彼の優しさをひとつでも多く、気付きたい

「ありがとうございます」

面と向かってお礼を言うと、そっぽをむかれてしまった。





傍にいれることが、嬉しい。