(No.100 両手を伸ばして届く距離 ←) とても似ている、だからこそ、傍にいることしかできないのだ。 「バーナビー、君は"魂の双子"というものを知っているかい?」 「いえ、初めて聞きました。それは伝承か何かですか?」 「まぁ近いな。都市伝説のようなもんだ。」 身体の双子は見付けるのは簡単だ。同じ時を同じ腹で過ごした子供。 しかし、魂の双子というものは、外見的特徴は何一つ必要としない。距離、性別、人種。年齢すら離れていることもある。 「でも、虎徹さんと貴方は・・・」 「とてもよく似ていると?」 「えぇ」 「済まない、言葉が足りなかったな。バーナビー、私が片割れだということは合っているが、私の片割れは虎徹ではない」 「え・・・?」 「私の片割れは、友恵だ」 トモエ。一瞬、誰の事だか解らなかったが、彼女の瞳と、虎徹の瞳が重なり、思い出した。鏑木・T・虎徹の伴侶。鬼籍の人となってしまった彼女と自身が、魂の双子だとは言った。 「虎徹と髪と瞳の色が近いのは遠縁に当たるからであって、お互い親戚というよりも友人と思っている。私が彼に惹かれたのは確かだ。だが、恋愛感情は一切無かった、それだけは友恵に誓わせてくれ。双子だからといって絶対に同じ人を好きになるという法則は無いだろう?」 虎徹にも、友恵にも向ける情は完全なる友愛。そこにそれ以上の感情は無く、二人の結婚が決まったときにはただ純粋に嬉しかった。 彼女が死んだとき、虎徹は伴侶を、は魂の片割れを亡くした。喪失感の大きさから互いの傷を舐め合うような事はあったが、決して埋まる事は無かった。 「結局、虎徹にはヒーロー業もあったし、楓ちゃんがいたからね」 語りながらがワインのボトルを傾ければ、深い赤がグラスを満たしてくれる。しかしはそれの奥の、バーナビーの目の前にある柔らかい色彩を放つロゼを手に取り、喉を潤した。 「貴方には・・・」 「ん?」 今まで一方的に喋っていたの話を聞いていたバーナビーの口が開いた。 バーナビーの、湖水を思わせる翡翠が真っ直ぐにの榛色を捉える。 「そんな存在は、いなかったのですか?」 「私の心配をしてくれるのかい?」 返事こそ返ってこなかったが、逸らした視線が言葉以上に雄弁に語っている。 「嬉しいねぇ」 クスクスと笑い出すに気を悪くしたのか、バーナビーは視線を合わすことなくのグラスに残っていたワインを飲み干した。 「ありがとう、バーナビー」 彼女に視線を戻すと、はとても優しい笑みを湛えていた。 意地の悪い問答をすることもあれば、こうやって愛しいものを見る様な視線を向ける。虎徹の優しさとは違う女性特有のまろさを持った愛情に、時々、鼓動が速くなる。それが恥ずかしさからか、それ以外の何かからかはまだ判別が付かないが、今すぐに決めなければいけないことでもない。 そうやって答えを曖昧にしたまま、日常に埋もれていく。 「私には、私の城に来る客がいたからね」 は自分の持つバーを城と称する。 彼女の経営するバーはシュテルンビルトに三ヶ所存在するが、が城と称するのは誰も雇わない、ブロンズステージに存在する小さな店だ。 「原点は持っておいたほうがいいからな」 そう言って収益の出ない店を毎晩開く姿に、始めは疑問を覚えたが、暫く生活を共にするうち、それが彼女の支えだということを朧気ながら理解した。 「バーナビー、君もどうだい?そろそろ部屋に引き籠っているのも飽きたんじゃないか?今まで散々働いてきた君だから、働かざるもの食うべからずという言葉はは当て嵌らないが、そろそろ自堕落な生活を改めてもいいかもしれない」 さぁ、どの店がいいかい? ネイサンから話は聞いていたが、彼女の持つ店はどのステージにも存在し、繁盛しているという。 君が来るときっと売上が跳ね上がるなぁと笑いながら言うに、バーナビーは一つの店を挙げた。 「本当にそこでいいのか?」 「いけませんか?」 「いやぁ、そういうわけではないけど・・・」 (→ No.083 曖昧な場所で) |