(No.087 灰皿と飴玉 ←) 食いしん坊は恰幅が良い人間が多いが甘味狂いは食事をまともにとらないので線が細いのだと。彼女は間違い無く後者だ。でなければ二日で段ボール三箱分のチョコレートを消費してなお甘いものの話など出来る説明がつかない。 「あ、雲雀さん、この間は桜餅ありがとうございます!アレ日本でも中々手に入らなくて一度食べてみたかったんですよ」 何このデジャヴ。 直樹を懐柔するこの男がイタリアに長期滞在しているからこそ、ボスの側を常に離れない二人の守護者の日本への出張が実現出来たのだ。ボンゴレ本部に留まって欲しいのは山々だが、誰も彼を束縛する事は出来ない。そんな彼が、群れるのが嫌いな筈のあの雲雀恭弥が執務室に存在する事は奇跡に近い。理由は自分ではなく、彼に気に入られている目の前の部下。雲雀がに興味を持つのは理由は彼女が有能だからだと信じたい。それ以外に無い筈だ他に理由なんてないこれ以上好き勝手されてたまるもんか・・・とは思えど綱吉は未だに雲雀に強く言うことが出来ない。 「当然だよ、あれは僕のお気に入りだから」 「はふぅ、あのお店の桜餅の為なら雲雀さんの無茶ぶりにも対応出来る気がします。というか頑張りましたすごいぞ私」 「今度はに何させたんですか、雲雀さん・・・」 「ちょっとした後片付けをね。急を要したから君の女王様、借りたよ」 女王様。それは雲雀がを表す時によく使う三人称だ。 からかい半分冗談半分で言い出したのは他の守護者だった気がするのだが、その呼び名が気に入ったのか、雲雀も綱吉との会話で彼女をそう呼ぶ事が多い。 「雲雀さん、借りるのはいいんでさけどその前に書類にしていただけると嬉しいんですけど」 「さぁね」 「書類より雲雀さんに貸し作っといた方がいいんじゃないですか?ボス」 にこにこと対雲雀用(獄寺命名)の笑みを浮かべるは表情を変える事無く綱吉へ振り向いた。普段とほとんど変わらない笑い方なのに一番感情が読めない。誰にも言っていないのだが、目の前の二人は超直感の発揮され難いワンツートップだったりする。 「桜餅は?」 「あれは私の労働に対する代価です」 お金じゃないのね。確かに量が量なだけいい金額にはなるし、彼女の要望を全て叶えるとなれば金銭以上に時間も手間もかかる事を綱吉は身を持って知っている。 「あ、じゃあ最近のドルチェ代が減ったのは・・・」 「僕が餌付けてるからだろうね」 餌付けって言っちゃったよこの人!まさかの小動物扱い!? 「君への報酬は払った筈だけど、」 綱吉にまで借りを作るつもりは無いと暗に伝える雲雀の言葉に怯まないは先程からへらへらと笑っていた顔の微笑み方を変えた。雲雀を挑発する様に、獲物を目の前にした獣の様に。普段の笑みがデイジーのように可愛らしいとすると、今の表情は艶やかに咲き誇る山百合のようだった。 「あら、雲雀さん。私は頭のてっぺんから爪先まで全部ボスのモノですよ?」 もちろんおっぱいもですと以前上司から受けたセクハラへの嫌味も忘れない。 雲雀はソファを陣取るとの視線を外すと上から下へ視線を滑らせ、最後にの言葉に硬直した綱吉をちらりと見た。 彼女の言葉をくだらないと一蹴する事も出来る。しかし次からが自分の依頼を受けるかどうかあやふやになるのは自明の理だ。彼女は自由奔放に動いて居るように見えるが、本当の意味で綱吉を裏切らない。彼は気付いていないが、彼女もまた彼の側近としての役目を十二分に果たしている。だからこそ獄寺は、守護者でもないを護衛に付けたのだろう。 「沢田綱吉、一つ借りだよ」 雲雀はそう言い残し、執務室を後にした。扉が閉まってからようやく息を吐く。はで「よかったですねーボス」と普段と変わらぬ笑顔でチョコレートを口に入れていた。さっきのボスのモノ発言は、雲雀に対する牽制の言葉だ。そう自分に言い聞かせ、無意識に速まった鼓動を落ち着かせる為にそっと深く息を吐く。 終始笑顔のと無表情の雲雀。表情こそこそ両極端な二人だが、本当の感情を上手く隠すいう点ではとてもよく似ている。それは自身の本質が揺らがない事を意味しており、時にそれは強さに繋がる。 「ありがとう、」 「ボスの利益は私のドルチェになりますから」 「本音ソコ!?っていうかチョコあと一箱!?」 重なるツッコミに親指を立てて一仕事終えたと言わんばかりのいい笑顔で「グッジョブボス」と言われても嬉しくない。項垂れながら書類に目を通していると、は机に取り付けられた内線で調理場に二人分の昼食とチュロスとアッフォガードとティラミスを強請る姿を見て、今回も一度位抜け出せるかもと綱吉はほくそ笑んだ。 しかし流石の右腕も今回ばかりは手強かった。チョコレートの残りを部下から逐一報告を受けていた獄寺の手によって作られた後彼女の目の前に積まれた柏餅と水ようかんと麩饅頭とあずきバーを見て、今回限りは逃げられないと綱吉が悟るまで、あと五時間。 私は貴方のモノだから、わがままな私をたっぷりと甘やかして |