見回りを終えた一人の風紀委員が、応接室のドアをノックする。 入るように促すと、失礼しますという声と共に現れたリーゼント。ではなく、丈の少し短いセーラー服。普通の女生徒は決して近付かない応接室だが、右腕に風紀の腕章を付けている彼女だけは別だ。 「雲雀さん、明日は私、こちらに来るのが遅くなります。見回りには行けませんが、書類整理は出来ますので」 「何で?」 「一昨日お話ししたストーカーの件で、ちょっと出て来ます」 「あぁ、あれね」 風紀委員唯一の女性である彼女、は立場上他の生徒からの畏怖の対象ではあるものの、悩みを持つ女生徒の最後の砦でもあるらしい。時折彼女にしか回ってこない相談がある。他の風紀委員の手を借りる事もあるが、基本的にそれらは彼女一人で対応する事が多い。それがたとえ危険を伴う事になっても。 女性であるが、風紀委員としての活動を執行するに何ら支障はない位、彼女は強かった。事前に一言、事後はしっかりと。雲雀にきちんと報告をあげるので彼もの好きにさせていた。 「場所は?」 「おそらく二丁目の方かと」 「そう」 「少し騒ぎが大きくなりそうなので、警察に犯人の事後処理を頼んであります」 「ワォ、君が警察を呼ぶなんて。少しで済むといいね」 「あまり大事にしたくはので、一応」 交わる視線は何時も頭を下げるから外す。応接室を去る彼女の後ろ姿を雲雀は扉が閉まるまで眺めていた。 の立てた計画により、多少の被害はあれど、無事犯人は警察に引き渡された。 肝心の彼女は既に応接室で書類整理をしている。なのに何故か雲雀の機嫌が悪い。同じ場にいるだけで震え上がってしまいそうなのに、は黙々と書類に目を通していた。 因みに他の風紀委員の方々は雲雀の様子を知るや否や、見回りという名の避難をしている。 「ねぇ」 「何でしょうか」 仕事を続けたまま、雲雀に視線すら向けずは答える。それが我慢の限界だったのか、雲雀はの正面に立ち、左腕を掴み立たせた。は顔をしかめ、彼女の手を離れた書類が宙を舞う。 「何で怪我したの?」 気付かれないと思ったのか、鋭い視線がそう言っていた。包帯の真上とはいえ、傷を避けて掴んだのは彼なりの配慮だろう。 「被害者の生徒を囮にするわけにはいかなかったので、代わりに私が」 「怪我をする必要は?」 「警察が動き易い様にです・・・すみません」 全て読まれていたからか、自分が怪我をした事への反省か、が視線を逸らす。 「君は僕のものなんだから、勝手に傷付くのは許さないよ」 「はい」 「怪我なんかしなくても警察位動かせるから」 「はい」 右手は彼女を掴んだまま、開いた左手で彼女の頬を撫でながら、視線を自身へ向けさせた。は拒絶する事も慌てふためく事もなく、雲雀の行動を受け入れる。彼のこういった触れ合いは一度や二度では無い。初めのうちは真意が読めず身構えてしまったが、噛み殺される訳でも無いので好きにされている。 応接室の外では報告書を持った草壁が入室のタイミングを見計らっていた。 会話だけなら二人は恋仲の様に聞こえる。しかし彼は知っていた。この二人は、互いを風紀委員と委員長としか見ていない。委員長の機嫌は治ったし別に二人は恋人同士ではないのだからいつ入っても問題無い筈だが入り辛いのは何故だろう。 あの二人は付き合っていない付き合っていない付き合っていない・・・よし。「失礼します」 |