あの人は、私の憧れでした。 「、馬を頼む」 「はい、兵長」 「晩飯の後、執務室に来い」 普段なら自分で厩まで繋げにいくのだが、今日は内地から戻ってすぐに会議があると聞いていた。いつもより眉間の皺を深くしているから、大方パトロンか憲兵団と何かひと悶着起こしかけたのだろう。立場もあるから堪えてくれて何よりと言いたいのだが、いかんせん反動が大きい。特に私に対しての反動が。 「はい、兵長」 暗黙の了解とは恐ろしいもので、兵長が内地から帰ってきたときは必ず、翌日の午前中は私は何処で何をしていても咎められることはない。 大抵は普段通りの行動をするように心がけているのだが、一度だけ盛大に寝坊してしまった事がある。慌てて自分の持ち場へ向かい謝罪すると、同期はおろか上司でさえ私から目を逸らした。 勿論その晩、同期を問い詰めた。いざというときの為に隠し持っていた酒瓶を掲げ半ば酔い潰し聞き出した内容は、リヴァイ兵長が。「なら自分の部屋にいる、昨晩無理をさせたから寝かせてやれ」と言ったらしい。 私はそこで全てを放棄した。 調査兵団の一兵士なので心臓は捧げてしまった。だから神に誓っても肝心のハートが無いから意味がないかもしれない。それでも敢えて言わせてもらおう、神に誓って、兵長とはそういう関係ではない。そういう関係ではないのだが、人に言えない関係ではある。 「兵長」 「何だ」 「先日の寝坊、庇って頂いたようで。ありがとうございます」 「いや、あれは完全に俺の所為だからな」 「その件なのですが、兵長の言葉で私達の関係が少々、いえ大分誤解されているようなのですが」 「何か問題でも?」 問題。翌日の寝坊を叱責されなかったのはありがたかったし、影で誤った認識のまま噂はされど話が飛躍することも無く、飲みや食事の席で話題の中心にとして吊し上げに合う事も無い(多分これは兵長を恐れての事だろう)。 「いえ、とくには」 「ならいいだろう」 そう言ってソファに座る私の膝に頭を乗せていた兵長が身じろく。いわゆる膝枕と呼ばれる体勢のまま器用に私のブーツを脱がし、自分が寝ていた箇所に足を乗せた。肘掛けを枕にしてソファに横たわる事になった私の上に兵長は乗りかかり、胸に顔をうずめる。もぞもぞと身じろぎ、気に入った体勢になったところで満足気に大きく息を吐いた。 「それもそうですね」 もう幾度となく繰り返され、慣れてしまった光景だ。 人類最強の二つ名を持つリヴァイ兵士長のこんな姿は誰にも見せられないし、誰も見たくないだろう。私だけに甘える兵長、私だけが知っている人類最強。 優越感とまではいかないが、この姿を誰かに教えるつもりも見せるつもりもない。 我ながらうまく丸め込まれた気がするが。ちょろくないか、私。 「それとも何だ、噂じゃなくして欲しいのか、お前は」 胸から顔を上げ、にやりと不敵に笑う兵長は可愛くもなんともない。眼光は鋭く、眼の下にくまを作ったもうすぐ30に手が届く大の大人(しかも男)がそんな表情をしても、正直な感想としては子供に泣かれそうな顔だと思った。 「兵長は、どうお考えで」 「質問を質問で返すな」 「すみません」 形だけの謝罪を述べゆるく笑う私の顔を穴の開くほど見つめた兵長は、再び私の胸を枕にするように押し付け、抱き枕の様に足と足を絡め背に回した手に力を込めた。 「悪くない」 つまりは、現状維持という事で。 「でも兵長、どうして私だったんですか?」「肉付き」「は?」「そのむちっとしたエロい身体を一度でいいから抱きしめて見たかった」(このエロ親父・・・)「で、病みつきになった」「・・・ソウデスカ」 |