(No.309 守り続ける沈黙 ←) 銀時から彼の生い立ちを聞いたことがある。その時私は高杉晋助を、迷子のようだと思った。 しばらくして捕えられた私は、男の観察を始めた。片目を覆う包帯ですら彼を引き立たせる道具だと思えるほど、見目麗しく、残酷で、部下に愛されているこの男は、自分の事なのにそれに気付かない。気付くはずもない、この男は自分に何一つ興味を持っていないのだ。 疑問は簡単に解けた。この人は愛を知らないんじゃない、愛を奪われたんだ。犯罪者であろうとも獣のように獰猛で全てを壊していく末に彼が見ているものはたった一つで、それは決して手に入らないモノだと思い出した。 身体を清める前に、は俺の頭を抱える。それはほんの僅かな時間で始めは気付かなかったが、どんなに気をやろうとも傷つけようとも指一本動かせない位まで果てさせたはずでも、必ずは俺の頭を胸に抱く。 心臓の音を、聞かせるかのように。 心地いいと感じた事はないが、煩わしくも思わなかったのもまた事実で。何度目かの情事のあと、彼女はやはり同じように頭を抱えた。それはわずかな間だが、身を清めるため床離れようとしたの腹に両腕を回し彼女を拘束する。息を飲み、僅かに硬直した事に気付かないふりをしてそのまま腕に力を込め互いの肌を密着させる。の腕にも籠る力が強くなったのは錯覚ではないだろう。上気した肌は熱いし互いの体液でベタベタして気持ち悪いし心臓の音は煩いしいいことなど何一つなかった。何を思ってこの行動をしているのか知らないし知りたくもない。 「」 早く何とかしないと。 私達の関係はあっけなく終幕を迎えた。 彼は江戸に近いところにずっととどまっていたようで、真撰組がアジトを見つけたのだ。やけに表が騒がしいと見張りも含め皆出払ってしまったあと、誰かが真撰組の名を叫んでいた。 「どこだ!!」 爆音、喧噪、響く金属同士を合わせる音の中自分の名を呼ぶ怒声が響いた。部屋に一人でいた私は副長の声に応えようと声を上げた。足音が聞こえ障子が吹き飛ばんとばかりに勢いよく開かれた。 副長! 「テメェ聞こえてるんだったら返事位しろ!」 副長、私、返事しましたよ? 「おい、」 はい、なんでしょう。 「・・・声が出ねぇのか?」 眉間の皺を深めた副長の言葉にサーッと自分の血の引く音が聞こえた。さっきから自分の声が聞こえないのは爆音で耳がやられただけだと思ってた、信じてた。喉に手を当てる、一音一音確かめるように喉を震わせた、筈なのに。口から出る空気は誰の鼓膜も震わすこともしない。 お芝居だった、筈なのに。 こうして観客がいなくともゆるやかに物語は紡がれていく。 (→No.067 恋と愛の違い) |