テスト前最後の休日。バスケも出来ないし勉強は正直飽きた。真ちゃんを呼某と思ったがきっと二言目に勉強はどうしたのだと言われるのが目に見えているので、久しぶりに一人で出掛ける。 「ああっ!」 「っとぉお!」 かといってアテもなく街をぶらぶら歩いていたら悲鳴が聞こえた。声の方向をみやると空から色とりどりの花が降ってきた、それから人も。歩道橋から女性が落ちて来るなんて今日のおは朝の順位は何位だったんだとか考えながらの自慢のホークアイを駆使し落ちてきた彼女を抱きとめる。踏み外したのが地上まであと数段だったので事なきを得たが散らばった花は空に舞って幾らか風に飛ばされてしまった。 「大丈夫っすか?」 「あ、あ、ありがとうございます!!」 「オネーサン急いでるんでしょ?一緒に持って行きますよ!」 「お、お、お願いします!」 ものすごく勢いでお願いされた。 釣られて慌てた俺と女の人は道に散らばった手分けして花を拾い集め半分以上を抱え一緒に走った。向かった先はぶビルで、裏口から入った俺はパスも貰わないまま奥へと連れていかれた。 「遅い!」 あ、オネェがいる。 「すみません!」 「ほらぁちゃんが待ちくたびれてるわよっ」 「いや、私は別に」 「んもうっ!ツレないんだからっ!モデルが来る前にちゃっちゃと準備終わらせるわよ」 連れてかれた部屋は撮影の準備をしていたようで、どうやらこの花を待っていたらしい。ファーストインパクトの強かったオネェ他数名に花を奪われるように渡した途端室内が更に慌ただしくなった。興味はあったが邪魔になりそうなのでそろそろ退散するかと人の目を避けて出口へ向かう。 「ねぇ、キミ」 ジーンズに黒シャツというシンプルな格好の女性が俺に向かって手招きをしていた。周りに彼女を気に掛けるスタッフはいないのでとりあえず向かってみる。その場所だけ周りの慌ただしさから切り離されたように静かだった。さっきオネェにちゃん、と呼ばれていた人だ。 「何すか?」 「ちょっとここに立って貰える?」 彼女が指すのは先程持ってきた花が散りばめられたスタジオで最も明るい場所。 普段なら「すんません、オレそーいうの興味ないんでー!」とえが語尾こそ疑問系だったが、ノーを言わせない笑みを浮かべるキレイなお姉サマに興味が湧いたので踵を返す。 学校で撮るスナップ写真とは違って完全に造られた空間。撮られるのは嫌いではないが妙に緊張感が走る。確かにここに立てるのは選ばれた人間だけで、些か場違いな気がした。 「渋滞にはまっちゃったみたいでね、肝心のモデルが遅れてるのよ」 カシャリ 「あー、そうなんすか」 「届いた花が蕾ばかりだったのよ、慌てて皆で街の花屋に買いに行ってんだけど間に合って良かったわ。ありがとう、咲ちゃんとここまで花を持ってきてくれて」 「まー、でも肝心のモデルさんが遅れてたら急いだ意味が無いっすね」 カシャリ 「ふふっ、確かに。その代わり見ず知らずの女の子を助けた優しい君に御礼が出来るわ」 カシャリ 「いやいや俺もメズラシー体験させてもらってますからね、あざーっす」 「あら、てっきり何処かの新人さんかと。君、街中で声かけられるでしょ」 「えーと、まぁボチボチ?」 カシャリ 「つかオネーサン俺が素人ってわかっててわざと会話してるっしょ?」 「あら」 「緊張ほぐそうとしてるのバレバレっすよ?」 「じゃあ、君はあまり緊張してないのかい?」 「そりゃしてますけど思ったよりはしてないっていうか・・・」 「ほう」 あ、俺いま地雷踏んだ。 会話の合間に聞こえていたシャッターの音は止み、今まで忙しなく動いていても静かだったスタッフ達が足を止めざわめき出した。 「それは失礼、素人だと思って手を抜きすぎた様だ」 薄れていた緊張感が一気に高まる。口調まで男らしくなりまるで別人の様だ。ついさっき俺を撮っていたカメラは咲ちゃんが持ってきた一回り大きいものと交換されている。 「そう言えば、名前を聞いていなかったな、少年」 コミュニケーションを図ろうとしてた会話から、強引に彼女のフィールドへ引き摺り込まれる口調。ビリビリと伝わる威圧感が半端ない。 「・・・高尾、和成」 「だ」 、。 名前を口の中で反芻する。 彼女の言葉一つ、態度一つでこの決して小さくはないスタジオが別の空間へと変わった。 「では和成。改めてプロのカメラマンの仕事を見ていくといい」 結局遅れて到着したモデルそっちのけで始まった撮影で俺は彼女の眼に呑み込まれながらも彼女の出す指示に半ば意地になって応えた。 衣装を着せられ髪も弄られた挙句半裸にまでされた俺の写真は、顔を出さないという絶対条件の元、全国紙に載せられた。反共は凄まじかったが、それで俺がモデルにスカウトされたり周りに気付かれたりする事はなかった。 それもそうだろう。自分で言うのも何だが、アレが俺だなんて俺も信じられない。 はっきり言おう、エロい。 勿論それはさんによるものだが自分にここまでの色気があったのかと驚く位にはエロい。 俺が今見ているのは顔が写る事を唯一許した、唇から胸元までのアップ。濃緑の深いVネックのシャツから見えるはだけた胸元、舐め上げる唇。この時、俺の視線の先には彼女がいた。 ファインダー越しに見つめられていた身体がライト以外の熱でどうしても暑くてくらくらして、さんが近づいて来て彼女のスイッチが入ってから初めてファインダーから視線を外し、そのままの眼差しで俺を見つめた。 カラカラに乾いた喉を潤す様に唾液を飲み込み、乾いた唇を舐めた。 彼女が、欲しい。 後からさんに聞いた話だが、あれはとある紳士服メーカーがワンシーズン限定で出す予定のカジュアルラインの撮影だそうで、そこそこ売れているイメージボーイを勤め上げるモデルの我儘により、カメラマンにさんが指名されていたらしい。道理で俺が撮り終えた後すんなり帰して貰えたわけだ。モデルのプライド云々の前に、さんに撮って貰える事の方がずっとずっと名誉だというのだから。 写真展も開かない、名のあるコンテストには審査の対象になった時点で棄権する彼女は、仕事としての写真しか撮らない。の写真は世にごまんと出回っているので、誰でも一度は目にしているが、名前を知る者は少ない。 そして撮影が終わる頃、俺はすっかり彼女の虜となったのだ。 「今日の写真、焼いてやるから取りに来い。その学ランのボタンは秀徳だろう?」 「え?あ、はい」 「なら近いから部活帰りにでも寄れ」 彼女はそう言いながら何か書いた紙を渡した。 表に彼女の名前だけ印刷されシンプルな名刺の裏に、手書きで電話番号とメールアドレスが書かれていた。 「今週から期末だろう?赤点取って部活参加出来なかったら笑ってやるよ」 「全く、何をやってるのだよ」 「へ、あ、真ちゃん?」 「よくこんな破廉恥な写真を晒せるな」 「真ちゃん、よくこれだけで俺ってわかったな」 「何故だ、これはお前だろう?」 まるで今日の天気を聞かれたかの様に当然だと言わんばかりのお答えが返ってきた。 あー、うん。流石俺のエース様。 「悪りぃけど他の人気付いてないから内緒にしてくれよな」 「汁粉一本で手を打とう、それにこれは頼まれたのだろう?」 「何で?」 真ちゃんは何故訳を話さないとならないのか不思議でたまらないという顔をしていた。珍しいが、そう思った理由を俺の方が聞きたい。 「お前がこういうものに興味があるとは思えない、それにこの写真、お前が心を許す相手が撮った事くらいお見通しなのだよ、ただの友人ではないだろう?」 いや、初対面の赤の他人でした。 喉まででかかった言葉を何とか飲み込み、曖昧に返事をする。 満足そうに頷く真ちゃんに、この話は終わりだとばかりに話を変える。ここでもし間違い指摘してしまえば相手との関係と、気付いてしまった真実を話さなければ目の前の男は納得しないだろう。 「まさか他人の感情ににぶいエース様に気付かされるなんて思わなかったわー」「重症だな」「自覚してるから改めて言わないで、真ちゃん」 |