(No.343 君が迷う迷路 ←) 虎徹が入院している間は、ずっと付き添っていたらしい。 復讐を誓った二十年と言う歳月は重く、果たした所で心は幾分か軽くなろうとも傷はこの先も癒えることはない。真実の代償も大きかった。犯人は親代わりの男。さぞ衝撃は大きかっただろう。 改めて、自分は適任ではないと役目をに任せたあの男に腹が立ってきた。 百歩譲って彼が役目を放棄することを容認しよう。彼だってその手で守るものは他にあるのだ。かといって私に手渡される理由がこちら側は見当たらない。かといってあちらに強い理由も無く、挙げるとすれば虎徹と同郷、幼馴染み、兄妹の様に似ている黒い髪と榛色の瞳。性格は似ても似つかない。私は虎徹程優しくないし、お節介焼きでもない。 おそらく、これから彼は私と虎徹との違いに少しずつ、だが確実に違和感を覚えるだろう。 それに彼が耐えられるかどうか・・・ 「・・・こ・・・、さん?」 今まで隣りで寝息を立てていた男が、わずかな空気の揺らぎに気付いたのか起きてしまったようだ。 彼の睡眠の浅さも気になったが、シルエットであの男と自分を間違えるとは相当重症だ。 「あぁ、すまないバーナビー、起こしてしまったか」 「いえ、」 闇の中、彼の瞳は見えない。窓の外から漏れる僅かな光を頼りにバーナビーへ右手を伸ばし、顔に近付けるとすり、と自ら頬を摺り寄せた。 「暖かい・・・」 「新陳代謝が良いからな」 「・・・すみません」 紡がれる謝罪。彼は一体何に対して謝っているのだろう。 虎徹と間違えた事? 連絡もせず部屋を訪れたこと? 一緒のベッドに寝ていること? それとも・・・ 少なくとも今彼に必要なのは彼の心を揺さぶる言葉ではない。 はベッドサイドの間接照明を灯し、互いの顔がはっきり見える位置まで移動した。鼻先がくっ付きそうな位顔を近付ければ、彼が欲しがるこの色が見えるだろうか。彼が信頼した瞳に、とても近い色。 「頼ってくれて嬉しいよ、バーナビー」 彼の翡翠色の瞳を見て笑えば、バーナビーはようやく安堵の表情を浮かべる。 運んだ時は気付かなかったが、隈がひどい。相当寝れなかったのだろう。 「私の朝は早くない。ゆっくり出来るからもう少し寝るといい」 「ありがとうございます」 おそるおそる此方に伸びてくる腕を拒まず、されるがまま彼を受け入れる。 遠慮がちに、それでも息が詰まるほど強く抱きしめられた。 たとえ僅かだろうと、彼の信頼を得続けなければ、虎徹のかけた呪いは解けてしまうだろう。 (→ No.191 引き合う絆) |