その細い身体の一体何処に連日連夜彼女が食している大量のドルチェが入るのか。それはに甘い物を与える時に必ず浮かぶ疑問。祖国には甘い物は別腹という諺があるが、彼女の場合甘い物しか口にしているところを見た事がない。 「それにしても良くこれだけの量のベルギー王室御用達のチョコレートなんて用意出来ましたよねぇ獄寺さん。これだったらいつ買収されても大歓迎ですよ私」 「・・・よかったね」 何故彼女が執務室で堂々と甘味を楽しんでいるのか、しかもそれは犬猿の仲ともいえる男が彼女の為に取り寄せたもの。部屋の主である彼女の直属の上司は勿論執務中だ、そしていつも以上に覇気がない。普段ならこの光景を咎める筈の上司の右腕が不在な理由も全ては三日前、が獄寺と山本に呼び出された事から始まる。 がこの二人に執務室で顔を買わせる事はよくあるが、わざわざ呼び出しを受けるのは珍しい。・・・さてはメイド相手にお菓子教室を開いたのがバレたか?それとも一昨日勤務中に料理長の新作ティラミスに舌鼓を打った事かしかしあの時は山本も一緒だったので彼も同罪だからそれはないだろう。五日前にボスを連れてカフェ巡りしたのはすぐに見つかり執務室でボスと仲良く正座しながら叱られたし・・・あ、昨日彼の愛猫に勝手に炎をあげたっけ。大空の炎ならちょっとだけだし気付かれないかなぁと思ったのに。 そんな悠長な事を考えながら辿り着いた執務室の空気は思った以上に重かった。の脳裏に今までの悪事が走馬灯のように駆け巡る。 ・・・ドルチェ禁止令出たらどうしよう。 「来たか、」 珍しく獄寺の声が真面目だ。いや彼は普段も真面目だ。ただ、を前にすると怒る事が殆どで、にとって普段の獄寺が珍しいだけだ。隣にいる山本は相変わらずでと目が合うとにへらと笑い返してくれたが、どちらかというと仕事モードの顔をしている。獄寺は持っていた一枚の紙を読み上げた。 「俺たちが明日から日本に行くのは知ってるな。その間一週間、お前に十代目の護衛を命ずる。一週間お前は常に十代目の側にいろ掃除部隊も部下に任せろ十代目の執務以外の外出はするな」 「何で?」 素朴な疑問。獄寺が俯き、手に持っている書類はぐしゃりと握りつぶされた。 「テメェ命令だっつってんだろがぁあああっ!」 怒りに任せに殴りかかろうとする獄寺を隣にいる山本が宥める、というよりこの場合は後ろから両腕を拘束して抑え込んでると言った方が正しい。獄寺の爆発をあと一歩のところで踏み留められる理由はただ二つ。 綱吉直属の部下という獄寺が最も大切にしている立場に彼女もいる事、彼女の仕事とボディーガードとしての腕が超一流である事実。 認めたくないが。 「まーまー獄寺、拒否られなかっただけマシじゃねぇか」 「そういう問題じゃねぇ!何度十代目を連れ出して問題起こしてると思ってんだ!」 「八回だっけ?二桁までもうすぐだな、」 「褒めんじゃねぇ山本!十代目も!何で毎回コイツと一緒に抜け出すんですか!」 「だってが抜け道知ってるから」 「だってボスが奢ってくれるから」 「いっぺん果てるか?」 「獄寺君ちょっと待ってここでダイナマイト使われると書類が!」 彼を止めたのは敬愛する十代目の静止の言葉か、それとも山積みの書類か。少なくとも獄寺が落ち着き自分を拘束していた山本の手を払う。気持ちを落ち着かせるかのように煙草を取り出し、火を付けずに銜える。 「」 「はい?」 「チョコレートは好きか?」 「好きです!」 「、近場のドルチェとベルギー王室御用達、明日から一週間食べ続けるならどっちがいい?」 「ベルギー!」 、陥落。 綱吉は唐突に守護者の一人を思い出した。しかも出会った頃の幼い姿の彼を。獄寺は苦手なモノにこそ対応策を練る事に長けているし、実際あの子もブドウ味の飴で釣られていた。餌の値段は違えど、五歳児と同じ扱いをされている事を彼女には言わないでおこう。 「なぁ、獄寺」「あぁ?」「あの量で一週間持つと思うか?」「・・・」 (→No.185 雲の上まで行こう) |