crimson secret 1











、今晩空いてますか?」
「えぇ」
「食事でもと思いまして」
「・・・構いませんが」

恋人や想い人を誘うには些か淡々とした口調。
義務、もしくは何か別の理由で誘ってるとしか思えないバーナビーとの会話に、虎徹はいささか疑問を覚えた。

「虎徹さん、明日までに報告書仕上げておいてくださいね」
「ちょっと!俺置いてきぼり!?」
「終わるのでしたら一緒にと思ったのですが・・・」

残念ですね。の言葉に続けてそう言い、笑うバーナビーに一気に不機嫌な顔をする虎徹。
二人が出て行ったドアを眺めながら、思わず一人呟いた。

「だからそういうことは残念そうな顔で言えって」





「虎徹さん、不審がってましたよ?」
の演技が下手だからでしょう?」
「あら、酷いヒーロー」
「酷いのは貴方でしょう?誘っても連れて行けないのを知っている癖に」

バーナビーの住むマンションのベッドで転がる二人は完全にオフモードで、バーナビーはジャケットを脱ぎ、もブラウスのボタンを三つ開けている。
シンクに置かれた皿には、さっきまでカプレーゼにアラビアータが乗っていた。テーブルに残っているロゼと赤のワイン。二人での夕食は外で食べることが殆どだが、時折こうしてバーナビーの部屋で夕食を取る。料理を作るのはだ。

、デザートは?」
「まだ食べるんですか?」

冷蔵庫にカタラーナが解凍してあると言ったが、バーナビーはベッドから動く気配は無い。はデザートの準備の為に腰を上げたが、バーナビーに腕を取られたる。そのままバランスを崩したの身体を引き寄せ、自らの下に組み敷いた。

「いいえ、僕が欲しいのは今夜のメインです」
「・・・見える場所はやめてくださいね」





「んぅ、っあぁ!」
・・・」
「あっ、あっ、っああぁぁ!」

甘い声にもっと深く突き立てたい衝動に駆られる。しかし、そんなことをしたら彼女がどうなってしまうかわからない。唯一方的に貪るなんて品のないことはしたくない。
この"食事"は彼女の好意に甘えているだけなのだから。ぺろり、と舐め上げると、牙を突き刺していた穴が小さくなる。残るのは情事後にも思える赤い跡が二つ。首筋に添えた手と身体を支える手を滑らせれば、しなやかにうねる身体。声と共に湧き出す甘い香りにくらくらする。
部屋に篭る汗よりも濃く、むせ返るほどの甘い香りは普通の情事では得られない。
人とは違う"食事"の為に身体を抱きしめているだけに過ぎない。勿論、その"食事"には強い快感が伴う為、される側は下手なセックスよりも気持ちいいらしい。
熱を持つ身体を鎮めるために触れる事はあるが、それ以上は進まない。味が落ちるから。





二人の関係は、三ヶ月程前まで遡る。
同じ職場に務めているのだが、その日は調べものをしていて帰りが深夜ギリギリになってしまった。
自宅の最寄り駅までたどり着き、早く帰りたかったので明るい大通りを歩かず、近道になる公園を通ったのだ。木の影に隠れる様に逢瀬を重ねるカップルなど本来なら目もくれないのだが、男の方に見覚えがあった。
同僚、というよりの務めるアポロンメディアのヒーロー、バーナビー・ブルックスJr。服装は普段の彼とは違い、黒一色で統一されて入るものの、あの顔はそうそういない。
熱いキスを交わす二人に、ゴシップ記者にすっぱ抜かれなければいいのだが・・・その程度しか思わなかった。バーナビーが女性の首筋を晒したのには流石に此処で始めるのかギョッとしたが、の思っていたことは始まらなかった。
首筋に、噛み付いたのだ。
遠くて顔まではわからないが、女性は嫌がっている感じもない。それでも、静かな公園に何かを啜る音が響く異様な光景に、は足音も気にせず走り去って行った。

「(これは夢だこれは夢だこれは夢だ・・・っ)」

次の日、一睡も出来なかったは普通に出勤はした。いつもはがが最初に来ていて、続いてバーナビー、ロイズ、最後に虎徹となるのだが、今日はバーナビーが一番乗りだ。

「おはようございます、
「お、おはよう、バーナビー」

こちらに向ける笑顔はいつもと変わらない。やはりあれは見間違いだったのだろうか。
何かに気付き、こちらに向かってきたバーナビーが手を伸ばす。思わず一歩下がってしまった。その手はに触れることは無かったが、目元に添えられた。

「隈が出ていますが、どうかされたんですか?」
「え?昨日ちょっと寝れなくて」
「あぁ、。コレを」

バーナビーが手に持っているのは私がいつも鞄に付けているアクセサリーだ、いつ落としたのだろう。今、バッグはロッカーに入っている筈なのに・・・

「ありがとう、バーナビー」

今朝は付いていたのだろうか・・・そこまで考えてふと気付く。今朝、無かった。
昨日は確かにあった、帰り際、駅で定期を取るときに一度落としている。
彼の手からアクセサリーと取ろうとするとやんわりと、しかし逃げられない強さで手を握られた。

「何処で拾ったと思います?」

手がゆっくりと引かれる。彼の綺麗な顔が満面の笑みが、近付く。

「さあ・・・落としてたのも今気付いて・・・」


目を合わせると、引き込まれるような碧が、此方を見ていた。

「昨日、見たことは忘れてください」

柔らかいが、有無を言わせない声色に、足が竦む。声がでない。

「・・・暗示が、」
「え?」
「・・・全く、貴方といい虎徹さんといい」
「どういう、事ですか?」
、今晩空いてますか?」





魅了されない君に魅了されたのは私でした。そう思っているのは私と貴方でした。

(→No.216 味見の条件)