趣味の悪い男と恐がりな女











vその男と女の関係を一言で表すと、利害関係の一致だと男の友人は語った。
男、折原臨也は人間を愛している。しかし彼の人間に対する愛の表現は歪んでいて、人間からしてみれば到底受け入れられるものではなかった。そんな男の前に現れた一人の女、それがだった。
彼女はとある理由で人生に絶望し、訪れる未来を自らの手で断とうとした。要は自殺だ。池袋のビルの屋上から身を投げようとした彼女が今も尚生きているのは些か矛盾しているが仕方がない。女は男と出会ってしまったのだから。





男が女の身投げに居合わせたのは彼に言わせれば必然に愛された結果であり、彼女が地面に身体を打ち付ける前に手を取る事が出来たのもまた然り。勿論彼女は手を振りほどこうとした。彼女は死にたかったのだ。しかし男が彼女の腕を掴む力はあまりにも強く、片手で引き上げられてしまう。男は抵抗を許さないとばかりに彼女を強く抱き締めた。突然訪れた部外者、そして圧迫感にの呼吸が乱れる。

「離っし、て!!」
「嫌だね、離したら君は死ぬだろう?」
「その、為にここにいるのよ!通りすがりの貴方に、邪魔される理由なんてないわ!」
「理由はあるさ。君さ、本当にこんな場所に只の通りすがりが来ると思ってるの?」
「どう、いう、事?」
「此処が自殺の名所って知ってる?端的に俺の目的だけ話すと、死のうとする人間が何を思って死のうとするのか知りたいんだ。ねぇ、君は何を思って死のうとしたの?何が君を死に追いやったの?君は死後の世界って信じてる?」

は自分を抱き締め続ける男に恐怖を感じた。男が自分の自殺を止めた理由があまりにも歪んでいたからだ。逆に自らの問いに答えず、カタカタと震え出す女に臨也は既に興味を失いつつあった。大方、目の前の女は死を恐れ始めたのだろう。こうなってしまえば死のうとしたのは突発的な事で大した理由など無いのかもしれない。
解放したらどうなるだろう。彼女への興味が無くなった時、ようやく女が喋り始めた。

「わ、私は、人を傷付けるのが怖いんです。精神的にも、肉体的にも。でも、生きてる限り人に関わります。関われば、どんなに努力しても必ず人を傷付けてしまう。死んでしまえば、例えその事で誰かを傷付けても、私はそれを知らなくて済むんです」

理由を話せば解放してくれると思ったのか。言った途端、再び腕の中で彼女がもがく。彼女はまだ死を望んでいるのだ。それに気付き臨也の心は歓喜に震えた。あぁ、これだから人間は素晴らしい。

「じゃあ、俺に飼われてみないかい?」
「え?」
「俺は人間を愛してる。だから人間のいろいろな面が見たいんだ。俺の側にいれば君は誰も傷つけずに済む。だって俺は君が人間である限り君の全てを愛する自信があるからね」
「私が、私である限り?」
「そう、だから、俺の所においで」





『それがどうして二人の利害関係の一致に繋がるんだ?』
「彼女が彼の愛を受け入れた。それがどんなに歪んだ形であっても、愛と呼ばれれば全て、ね。そして彼女が全てを受け入れるから彼は面白がっで彼女に様々な愛を与える。それによって他の人間に歪んだ愛を注ぐ時間が随分と減ったんだ。それは私達にとってとても僥倖な事なんだ。彼女は彼女で傷付けられず、自分を只受け入れてくれる人間を心の底から欲していた。居なければ死を選ぶ位にはね。二人を周りがどう思うかはまた別の話だけど、少なくとも二人は幸せなんじゃないかな?今の僕達みたいにね、セルティ」





私の魂を持って行ったのは、死神では無く彼でした。私に愛を教えてくれたのは、他の誰でも無く彼でした。