綱吉がボンゴレ十代目を継ぐにあたって、一つ問題が生じた。 今まで大抵の仕事はもう自他共に右腕と認められた獄寺が必ず側にいたのだが、改めて十代目嵐の守護者としての立場となれば自らの仕事も増え、常に補佐することが難しくなったのだ。獄寺はそれでも構わないと言ったのだが自分の身を案じる綱吉には逆らえず、秘書を付けることになった。拠点はイタリア、しかし守護者の殆どが日本人でイタリア語も完璧でないとなると、マフィアである事を除いても必然的に選択肢は狭まった。初代直系とはいえ、未だに彼の襲名に良い顔をしない重鎮の推薦する人物をほいほい傍に置くのもどうかと頭を悩ませていた綱吉に、思いもよらない人物から推薦があがった。 「それ、本当ですか?草壁さん」 「ええ、恭さんも承諾しております。何か問題でも?」 「正直言うと、助かります。ただ、雲雀さんがさんを手放すなんて」 「恭さんにも一応、守護者としての自覚はありますから。本部に行く口実としても丁度良いのでは?」 「言いますね」 「風紀財団としても、ボンゴレとの繋がりは強固しておきたものでして」 「ありがとうございます、心強いです」 。 風紀財団より提示された人物。彼女は立場的には目の前にいる草壁と同じ並盛中学の風紀委員会副委員長であり、その頃から雲雀を補佐していた。草壁が右腕だとすれば、彼女は三歩下がって付いてくる女房役と言ったところだろうか。風紀の紅一点ということもあり裏方に徹していた彼女と綱吉の面識は数える程しかない。それでもよく覚えている一幕がある。 まだボンゴレのボスになる事を拒んでいた時期だった。 リボーンが家庭教師としてやってきて、生活が一変してすぐに、その事件は起きた。ランボが十年バズーカを応接室に打ち込んだのだ。その一部始終を別の教室から見ていた綱吉は慌てて応接室に向かった。 「あのう・・・誰かいますか?」 部屋の主が不在である事を祈りつつ、応接室に一分で到着した綱吉が応接室の扉をノックする。どうか誰もいませんように。 その願いはむなしくも中から声が返ってきた。 「どうぞ」 女性の声がした。恐る恐る扉を開け、白い煙が充満した部屋を見渡す。運よく空いていた窓から弾が打ち込まれたため、ガラスが割れ室内がめちゃめちゃになった形跡は無い。正面の風紀委員長のいる机には誰もおらず、換気の為もう数か所窓を開けながら、先程の声の主を探す。 「こっちよ、沢田君」 声に呼ばれ重厚なソファの人影に向かった綱吉は、その姿を確認して小さく悲鳴を上げた。室内にこれといった被害がなかったのは、十年バズーカがきちんと仕事をしていたからだったらしい。 「雲雀さん、とさん・・・?」 語尾が疑問形になったのは確信が無かったからだ。ソファに座り、人指し指を口に当て静かにするよう促したのは十年後の、彼女の太ももに頭を乗せ寝ているのも、十年後の雲雀恭弥。 手招きをするに近付くと、彼女は雲雀とは反対側のスペースをぽふぽふと叩き、綱吉に座るよう促す。彼女の隣に座れば、にっこりと笑い掛けられ細い指で酷く優しく頭をなでられた。一つ上のの仕草には今までも幾度か視線を奪われたことがある。言うなれば近所の年上のお姉さんに憧れる少年といったところだろうか。そんな彼女の十年後の姿は今以上に美しく、鼻腔をくすぐる彼女の香りに胸の高まりが止まらない。 結局二人は五分間ソファの上から動かず、戻ってきた二人が全く同じ体勢だった事に更に驚き思わず悲鳴を上げてしまった綱吉は、起きた雲雀にボコボコにされるところだったが、寝起きという所を逆手に取ったが上手く誤魔化してくれたおかげで、事なきを得た。 「失礼します」 一度、形だけでも面接を。そう言って日本にいた彼女をわざわざボンゴレ本部まで呼び出した。 「お久しぶりです、さん」 「そうですね、財団を立ち上げた時以来ですね。沢田君も元気そうで何より」 「さっそく本題に入りますが、草壁さんから秘書の件は、聞いていますか?」 「ええ、私から雲雀にお願いしたんです、ボンゴレとの足掛かりにと」 「さんが?」 「はい」 チリッ、と心がどこかで違和感を感じた。 「さん、失礼を承知でお聞きしたいのですが、その・・・雲雀さんとは、恋人同士ですよね?」 「沢田君、私は雲雀さんの部下ではあるけど、恋人じゃないわ」 不躾な質問にも迷惑そうな顔そせず、ふわりと笑い答えてくれた。超直感が外れたのか、それとも人の本心までは覗けないのか。 「私と彼との関係は部下と上司、そして雲の守護者。私はあの人の都合のいい場所にいようと決めたんです」 「そう、ですか・・・」 「で、ホントのトコどうなんですか?草壁さん」 別件もあり滞在していた草壁を呼び出し、にっこりと笑いながら問うた。優秀な部下が手に入るのは嬉しいが無駄に馬に蹴られたくない。こんなに上手く行き過ぎたタイミングで彼女が秘書になる事にどうしても違和感を拭えなかった綱吉は、あの二人に最も近く、最も詳しい内情を知る草壁を呼び出した。 この件で呼び出された事を承知していたのか人気の無い事を確認した草壁は、あっさりと口を割った。 「との関係に業を煮やした恭さんが計ったのですが、言葉の通りにが受け取ってしまった。という所でしょうか」 うわぁ、面倒くさい。 「本当は少しでも嫌がる素振りを見せたらこの話はなかった事になる筈だったのですが、も恭さんも色恋沙汰にはどうも鈍いようでして・・・」 「それって、つまり・・・」 あの二人の恋愛の駆け引きの舞台が、風紀財団内では終わらず、ボンゴレを巻き込んで大きく広がるという事だ。何故付き合っていないのか理解できない彼らの恋愛騒動には、何度煮え湯を飲まされたことか。問題があるとすれば、あの二人に自覚が無いところだろうか。 それが一番の問題なのだけれど。 「ねぇ、もしかしなくても物凄く大変?」「えぇ、まあ・・・」 |