(No.106 透明な絆 ←) 「つまり、の声が出ねぇのは心因性ショックがでかいってことか」 私に外的負傷が無いことを確認した副長に担がれ、私は速攻で病院に連行された。事前に連絡を入れなかったせいで副長の返り血を私の血と勘違いした看護婦が悲鳴を上げ病院内が一時騒然となり、医者が速攻で手術の用意をしてしまったのは、間違っても私のせいではない。 「逆に、それがが殺されずに済んだ理由かもしれねぇな」 そうですね、手帳も小刀もすぐ奪われてしましましたし、既に調べ尽くされてるでしょうから。 「」 はい、なんでしょう。 「山崎も読唇術使えるから、仕事には支障は無ぇな」 えぇまあ。むしろ都合いいでしょうね。 医者が絶対安静を告げた矢先にこの仕打ち、流石鬼の副長と言いたかったが、声が出なくなるような事をされたのではないかと心配した医者の措置だったので問題ないと言えば問題ない。副長はというとその場にまだいた医者を一睨みし、二の句を継がせなかった。 「今も外から見れば土方さんが一人で喋ってるようにしか聞こえませんですぜぃ」 「・・・お前喧嘩売ってんのか」 いつの間にか部屋に入ってきた沖田君は、私を見ると一瞬眉をひそめたが、すぐにいつも浮かべる意地悪な企みを湛えた顔で笑った。 「の声が聞けねぇのは残念ですぜぃ。苛めたら結構イイ声で鳴いてくれるのに」 沖田隊長、私の事いじめないでください。 「問題はそこか」 ええまぁ。それにしても沖田さんって読唇術使えたんですね。 「土方コノヤローと一緒にしないでくだせぃ。俺が使えるのは読心術ですぜぃ」 ・・・沖田隊長、恐るべし。 彼女が最後に定時連絡を入れてから救出するまで、実に半年かかっている。傷跡の大きさから命に関わる傷を負ていった事は明確だったが、その傷は的確に処置されていて完全とはいえないものの大分塞がっていた。高杉本人とも接触はあったという。勘でしかないが浅葱の声が出ないのはあの男が原因だろう。彼女は詳しく語らなかったが、珍しく総悟が無償で自分に与えた情報だ。 怪我人の前ということで控えていた煙草を取り出し一服したところでようやく頭が回り始めた。 「は裏切らねぇだろうなぁ・・・」 と高杉の間に何があったのか土方は知っていた。確信が持てなかったので総悟にを屯所まで送るように指示した後、医者を脅して全部吐かせた、胸元から下、身体の至る所に散らばる鬱血の跡は真新しいものから消える間際のものまでいくつも存在していたし、下半身に情事の痕跡が残っていた。暴行の跡は無かった不可解なのはそこではなく、彼女の精神が傷ついていないことなのだ。薬が使われた形跡も無い。合意があれば当然、無くとも肌を重ね続ければ憎むなり情が移るなり何かしらの感情が芽生える筈だ。しかし彼女は何も変わっていなかった。情が移れば敵へ向ける刃が鈍る、憎しみもまた然り。元いた鞘に刃毀れひとつせず納まったのだ。半年の空白をものともせず。周りが慌てる位自然なのがまた不自然だったが所詮は元鞘、違和感は簡単に消えた。それ自体が違和感だと気付かれる前に。 の両親は攘夷戦争で死んでいる。一歩間違えば攘夷志士となっていた彼女を救ったのは、両親と仲の良かった近藤だ。 市井に生きることも進められたが、元より忍の家系だったこともありは真撰組へ入った。最初は女だからと随分苦労したが、土方をはじめ幹部が近藤が認めた人物と陰ながらを擁護したこともあり、今では隊士の一人として誰からも認められている。 表面上穏やかな日は三か月続いた。 勿論その間にもイザコザを取り締まったり桂の潜伏先で捕り物があったり万事屋がどうしようもない事件を起こしたり近藤さんがゴリラと結婚しそうになったりといろいろあったがどれも日常で片付けられる出来事だった。 は前と同じ瞳で世界を見つめ前と同じような笑顔を浮かべ前と同じように仕事をしていた。 声は未だ、戻らない。 「一週間後、警護する祭りで鬼兵隊が動くという情報が入りました」 「山崎」 「はい」 頭を上げた山崎と視線が合う。 「はこのことを知っているのか?」 「知っているも何も、この情報を見つけたのはです。勿論俺も裏を取りましたが、不審な点は今のところ何も」 「・・・そうか」 「に、見張りをつけますか?」 山崎もの変化の無さに違和感の拭えなかった数少ない一人だ。 「いや、いい」 「副長もおかしいとおもってるんじゃないですか?半年も捕えられていたのにも関らず、は何一つ変わってなかったんですよ!二重スパイになった可能性だってある。それなのに副長は何でそんな落ち着いて「黙れ、山崎」・・・」 感情を抑えた言葉に従う山崎。何か続けたそうな目をしていたが応える前に煙草を取りだし、紫煙を燻らせた。自分だって、落ち着いてなどいないのだ。 「に不審な点が無い、それが最も不審だというのなら俺も同意見だ」 「副長」 「・・・を呼べ」 囚われていた間の事は別の人間に聴取させた。後で記録を確認すれば、違和感も矛盾もなく綺麗にまとめ上げられた調書を見て称賛を送りたかった。内容はすべて偽りだろうが。 障子の向こうに気配がしたので「入れ」とだけ言えば、障子を開けたのはだった。 なんでしょうか、副長。 「捕えられた半年、何があった」 それは、調書に書いてあるのでは?副長も目を通されたと聞いていますが。 「あんな嘘、誰が信じる」 ・・・少なくとも、山崎さんと沖田隊長は信じていませんでしたね。あと副長も。 「御託はいい、お前があの半年間に何があってどういう心境でウチに戻ってきたかが知りてぇんだ」 医者から聞いている通りですよ?怪我の手当てをされ塞がり始めたころからほぼ毎日高杉晋助に抱かれてました。 「それは事実だろう?俺が聞きてぇのはお前が何を思ってるか、だ」 ・・・さあ。 何とも思っていないわけではない。ただ、彼をを思って心が揺さ振られないだけだ (→No.095 終わりの始まり) |