さんって彼氏いるのー? またか。 飲みの席で愚痴、セクハラの次に多いだろう常套句は、大抵部署の違う女性社員から発せられる。こういった酒の席が苦手な事を十分に自覚しているので、やんわりと断るのだが、どうしても断れないときが五回に一回はある。今日がその時だ。 人の彼氏の話というか有無を聞いてどうするのだろう。合コンに誘うのかはたまた人の彼氏を強奪するのか。どちらにしても迷惑な話だ。大抵曖昧に濁して逃げてしまうのだが、今日は何時になくしつこい。居ないと言ったら嘘になるし、いると言っても面倒なのだ。 「言っちゃえばよかったじゃん。私の彼氏はあの有名な情報屋の折原臨也ですって」 「臨也、私を失業させたいの?」 「勿論。あんな三流会社辞めなよ。ならもっと良いトコ勤められるし、なんなら永久就職する?俺が養ってあげるよ」 「それこそ御免よ。今の職場、結構気に入ってるの」 「それは職場が?それとも、隠れ蓑として?」 「どっちも、ね」 臨也の様に完全にアンダーグラウンドに行くつもりはないが、池袋でのささやかな非日常を捨てるつもりはない。 「まだまだ現役よ、池袋の噂屋はね」 彼女の手にかかれば社内によく流れる誰が誰を好きだという数日で消える噂から、それこそ都市伝説レベルまで街中へ浸透させる事が出来る。臨也の持つ情報網とは違うそれを使い、意図的に流される噂は彼女の思うままに動めく何か別の生き物のようだ。 「俺の情報網使わない所が愛を感じないんですけどー」 「趣味やら急ぎの超拡散ならともかく、臨也の情報網介すると悪用されるんだもの」 高校時代から人に噂話が好きだった。最初は出来心だった。嘘に真実をほんの少し足して、水に色水を足して少しずつ色付ける様に、紅茶にハチミツを入れ少しずつ色を濃くするように。最初はクラスメイト、次に学年全員。女生徒だけ、体育会系だけ。いつしか噂の中身より広め方に力を入れ始めた頃、この男に出会った。 「最近流れてる噂って、全部さんが流してるでしょ?」 折原臨也、噂で何度か使ったことのある名前。どんな人物か興味は無かったけど、まあヤバイ人物だと言う事は知っていた。流石にそれを知らなければ来神生じゃない。 「流して欲しい噂があるんだけど・・・ってちょっと人の話聞こうか」 「嫌な予感しかしないんで逃げていいですか?」 「ダメって言ってももう逃げてるじゃん」 パルクールを覚えてて神様に感謝したのはこの時が初めてな気がする。でも私の所為で臨也がパルクールを身につけて平和島に一時期逆恨みされたのは多分一生恨む。臨也を。 「何でこんな男と付き合ってるのかしら、私」 「愛じゃない?」 「あったっけそんなもの」 「・・・」 「ちょっと待ってゴメン本当に思い出せない」「え、マジ?」 |