年下の恋人






壮年の男性が墓に花を添える。
墓に刻まれている名はローマ字ではなく漢字であることから、少なからず花を手向けた男性の血縁者ではない。
男の風に揺蕩う銀色の髪は過去の見事な金糸を彷彿とさせる。精悍な面持ちはさぞや周りを色めき立たせていたに違いない。スーツの下にある痩躯は以前よりは大分失われてしまったが、年齢に似合わない鍛え上げられた身体がある。
昔スポーツ選手だったのか、そう問われる事にも慣れてきた。 彼の現役時代を知る人間もまばらになってきた。
彼自身、ヒーローとして輝いていた時代を語らない。彼と共に戦った仲間の半分は順当に天寿を全うし、既に帰らぬ人となっている。
彼の一番の理解者であった男も三年前、この場所で眠りについた。





奥様との忘れ形見ですかと問われることも無くなった。
二十の差は歳を重ねる毎に彼女の心を苦しめ、彼を無闇に待たせた。そして歳を重ねた今、何の障害も無くなった。
苦しかった時、自分は若かったのだ。
十代、いや、それより前に男と出会ってしまった事に何度後悔をしただろうか。 それでも、不思議と別離を望んだことは一度もなかった。

「バーナビー」

立ち尽くす彼を呼ぶ声は、の後ろから聞こえた。
眠る男の忘れ形見、は周りの人間で最も年の近い彼女を姉の様に慕っている。それを彼女もまたとても喜んでいた。

「楓ちゃん」

彼もまた、楓を自分の娘のようにかわいがっていた。自分の恋人が彼女より年下なのでバーナビーが楓とに対する態度には歳の差とはまた違う差があったが、それに不思議と腹を立てることも胸を締め付ける事もなかった。

「ありがとうございます、毎年此処に来ていただいて。きっとおと・・・父も喜んでいます」
「そうだといいけど、もしかしたらあの人の事だから、早く俺の事なんか忘れちまえって言いそうで怖いです」
「確かに、バーナビーの方が父をよくわかってますね」

にっこり笑う彼女は、とてもよく父親に似ていた。バーナビーが愛しそうに彼女を見る目は、父親の影を探した小さな子供の様にも見えた。





「では、僕たちはこれで。行きましょう、
「はい」

寄り添う二人の関係を知ったのは、自分の父親がヒーローとしってすぐの事だった。
最初は驚き、そして怒りを今でも覚えている。憧れのヒーローが自分より年下の少女を恋人にしていた事に、それを知って自分に隠していた父親にも同じ感情を抱いた。裏切られたとさえ思った。
にもよそよそしくしてしまった。彼女は幼いながらに楓の態度の変化の理由に気付いていたのだろう、何も言わずただ寂しそうな瞳で楓を見つめていた。
二人の絆の深さに気付いたのは彼らが互いの視線を交わらせた時で、突然の楓の登場に驚いた二人はすぐに逸らしてしまったのだが、それを見て楓は二人の関係に感じていた違和感も胸のつかえも全て捨て、祝福しようと思った。





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いとし、いとしといふこころ。