最近、私の家に黒猫がやってくる。 私に懐く動物など幼い頃に飼ったハツカネズミのアルジャーノン以来だったので、つい珍しく家に寄る度に餌付けをしていたら懐かれてしまった。 「また来たな、家出少年」 仕事一辺倒で生きている気ままな一人暮らしでは動物は飼えない。その前に倫理とか道徳とかそちらの方の問題の方が大きい。家出少年と呼んでいるのは揶揄ではないからだ。 「どーも」 今私になついている黒猫は人間の男の子の姿をしている。一度家に招いてから、忘れた頃に現れる。来るなと言っても来るのでその件は諦めたが、彼は人間なのでベランダの隙間を開けておいても入れない。寒くなってきても私がいつ家に戻るかわからないと口を酸っぱくしても玄関の前に座って待ってるので、首輪代わりに鈴の付いた鍵を渡した。 「帰れ」 「え、何で?」 こてり、とまだ幼さの残る顔で可愛らしく首を傾げても所詮は男子高校生。コタツで温まってる姿はまだいいが、立ち上がってしまえば私より15センチ高い身長とスポーツマンらしい筋肉質の身体。 暖められた室内に入ってもなお冷気を纏うコートを脱げば、いそいそコタツから抜け出した彼がコートとマフラーを受け取り、この時期定位置にしているクローゼットの横に掛ける。その間に私は女性が持つには大き過ぎるカバンを隣の仕事部屋に放り、途中のスーパーで買って来た食材をキッチンスペースに並べた。コートのブラッシングを終えた彼の気配が背後に移動してきた。 「前のペースならまだ許せたがここまで入り浸るようになるなら鍵を返せ」 「あぁっ!ひでーさん!この時期外で待つの寒いからって先週くれたばっかじゃん!」 「月に一度だったのが二日にいっぺんに変わるなら話は別だ」 「えーだってさんの作るメシ美味いんだもん」 「おだてても献立は変わらんぞ」 「今日何?」 「温野菜と親子丼」 「さん大好きっ!愛してるっ!」 「家の中で爪研ぎしたら追い出すからな」 「ブハッ!ホントに猫扱いされたし!」 私より随分大きな体躯を丸め腹に腕を回し背中に甘える姿は見えはしないが猫のようだ。構う暇がないのでそのまま準備を進める。猫は猫でこれ以上ちょっかいを出せば夕食が遅れるか追い出される事を知っているので放って置いても案外大人しいし、動き辛いのはもう慣れた。 手早く仕上げた夕食を美味い美味いとはしゃぎながら平らげれば眠くなったのか船を漕ぎ始めた。こういう所がまだ子供だと、つい口の端が緩む。言ったらきっと不貞腐れるだろうから言わないが。ちなみに優しさからではない、家にやって来る猫は拗ねたら後が面倒なのだ。 「和成」 「んー?」 「制服がシワになるぞ」 「さん一緒に寝てくれる?」 「私はこれから仕事だ。寝るならベッドを使え、明日も朝早いんだろう?」 「ちえ」 仕事、そう言えば大人しく引き下がるので、躾は良くで来ている。その代わり嘘だとばれたら拗ねるので、その時は大人しくベッドに潜り込み横になる。抱きつかれる事はあるが、それ以上の接触は無いので好きにさせている。 何時の間にか持ち込まれた寝間着替わりのシャツや下着、部屋着に気付いた時はゴミ袋に放ってしまおうかと思った。正座させて叱りはしたが、彼専用の引き出しを作る辺り私も大概彼に甘いのだ。 真面目に学校にも部活にも精を出している間は、少し位甘やかしてもいいかもしれない。 仕事のある大人は大変だが、高校生も高校生なりに大変なのだ。 「そういや801号室の知部さんと親し気に話してたようだな?」 「あ、うん。あそこの奥さん俺が待ってる時間と帰宅時間か結構重なってるんだ。何さんヤキモチ?」 「私との関係は何と言ってる?」 「若いツバメ・・・ってウソウソ従兄弟って言ってるお願いだからそんな目で見ないで和成感じちゃうっ!」 「猫の去勢手術にはいくらかかるか今度調べておこう」 「さーん、俺人間」 「去勢してほしいのか?」 「よかったー、時々ホンモンの猫に見られてる気がしてならないんだよね、マジで」「最初はネズミだと思ってたがな」「へ!?」 |