=フリーダムの朝は早い。 彼女は自らの住む住居の一階を改装して小さなカフェを営んでいる。彼女一人で切り盛りしているのだが。軽食が中心のメニューを出すの店は朝食の時間が一番忙しかったりする。 酒類を一切置かないので、ティータイムが終われば店仕舞いだ。 「すみません、今日はもう閉店なんです・・・」 キィ、と軋んだドアが来客を告げる。 店内はあらかた片付けて終えてしまった。片づけ始めならまだコーヒーの一杯でも出せるのだが。そう思いながら、が入口に視線を向ける。店内に入ってきたのは全身黒ずくめの男。ドアの閉まる音が聞こえるまで無かった気配が嘘のようだ。 その男はオールバックにした髪も瞳も全て漆黒を纏っていた。彼を取り巻く空気さえも塗りつぶされた闇を彷彿とさせる。そして何より、額の十字架がこの穏やかな街ではまず見かけない禍々しさを醸し出していた。 それでもは、やんわりと微笑んだ。 「久しぶり、半年振りかしら?」 気配を全く感じなかった事にも、男の作り出す空気にも驚く素振りも怯えた様子も見せない。男もそれを当然のように受け入れる。 「また暫く世話になる」 「事前に電話の一本でもくれれば昨日のうちに布団干したのに」 「善処する」 「前も同じ台詞を聞いたわ」 それはもう満面の笑みでにっこりと。悪意がある訳ではないが、こういう時のの笑みは少しばかり、怖い。 「干してある布団はもう仕舞って大丈夫だから」 昨日ではなく、今日干された布団。帰ってきたからには自分でやれということなのだろう。 「次からは気を付ける」 「ありがとう、クロロ」 半年振りの自室に埃が積もっていないのは彼女のお陰だ。余計な詮索をせず、ただ掃除しに部屋に入るだけ。勿論この部屋に自分と繋がる痕跡など一切残していない。あるのは古書のみ。 気が付いたら蔵書の数が増えているのは、の趣味だろう、彼女も時折この場を図書館代わりにしているのでギブアンドテイクといったところだろうか。 服を着替え、髪を下ろし額の十字を隠すように包帯を巻く。ここまでの道のりでは絶をしていたのでどんな恰好でも構わないのだが、しばらく滞在する街を歩くとなれば話は別だ。 「、外で夕食でもどうだ?」 インディゴのデニムと白いシャツに着替え終わったクロロは、店仕舞いを終えて自分の部屋へ戻ったを迎え入れた。は困った様にわずかに微笑むも、何も言わない。 間違ってもここは自室であって、クロロの部屋ではない。しかしもそれを指摘する事をとうの昔に放棄している。 互いの部屋があるとはいえ、片方は人が日常生活をしている部屋、もう片方は主の不在が目立つ、書斎というより図書館を彷彿させる部屋。 せめてリビングで待っていて欲しいと思うが、自分も相手の部屋に幾度も入っているのだから人の事を言える立場ではない。 「もう夕飯分の材料を買ってあるの。外で食べるのは明日にして、今日は家で食べない?」 「そうだな」 「デザートにプリンがあるわ」 「予定を繰り上げて早めに帰ってきた甲斐があったな」 本当はあと一週間は遅くなる予定だった。 今回手に入れた古書をアジトで読んでいたのだが、半分を持ち帰る事に決めたのが三日前。読み終えた物は全てシャルナークに一任し、早々に引き上げた。 クモの誰も、この場所を知らない。 犯罪の発生率の異様に低い、平和だが何もないこの街に幻影旅団の団長、クロロ=ルシルフルの住み家が存在すると誰が想像出来るだろうか。 「」 この女も、何も知らない。 |