沢田綱吉が執務室で缶詰となり、書類の山と格闘してかれこれ一週間が経過していた。今回は逃げていたわけでもないのだが、彼の右腕と可愛い部下が長く屋敷を留守にしているのも原因の一端かもしれない。最近またボンゴレに牙を剥くマフィアが出てきたのだ。獄寺をはじめとした守護者たちはその対応に忙しく、今はイタリア各地に飛んでいる。元々こういったデスクワークは向いていないのだが、今回ばかりは仕方がないと大人しくしていたのだが、昨日が限界だった。 前置きはともかく。八日目の今日、沢田綱吉は可愛い部下と愛の逃避行へ繰り出した。そう言うと聞こえはいいが、本当のところ任務から帰ってきたばかりで休みの要求ついでに報告へ向かったに泣きつき、彼女が愛してやまないドルチェで釣り脱走の共犯者に仕立て上げただけの話だが。 「が来てくれてほんと助かったよ」 「ボスが獄寺さんに怒られるのは別にいいんですけど私まで巻き込まないでください。あ、お姉さんズコット一つ追加で」 「先週そこの通りを真っ直ぐ進んで三つ目の角を右に曲がった先にジェラート屋が出来たんだ。知ってた、?」 「・・・味は?」 「山本はピスタチオがおススメだって」 「・・・書類整理までは手伝いませんからね」 唇ととがらせしぶしぶと承諾したの顔の前にピーチメルバを乗せたスプーンを差し出せば、彼女の口角は機嫌と共にすぐに持ち上がる。シラップでてらてらと濡れる官能的なそこに冷たい匙をゆっくりと挿入すれば、口の中に広がった甘さに彼女の笑みがさらに深くなる。 ぶっちゃけエロい。 欲しがる態度といい、欲を満たした後の満足そうな笑みは確かに生理的欲求が満たされたという意味では同じかもしれないが、公衆の面前でするにはちょっと刺激が強すぎる。それでもその表情満たさに彼女にドルチェを与える自分がいるのもまた事実。飼い犬に餌を与えているようだと揶揄された事もあるが、別の欲望をも満たしている気がしてならない。 「ところでボス、獄寺さんに連絡しましたか?」 「してないけど・・・どうして?」 「いえ、優雅で幸福なひとときにしては随分物騒な視線を感じてそろそろ痛くなってきたので」 「ゴメンね、なんかまた巻き込んじゃって」 「むしろ食後の運動が出来てよかったです。ここのカフェ本当にどのドルチェも美味しくてつい食べ過ぎちゃうんですよ」 「そう」 それはよかった。と続けられても良かったのに。綱吉はの手が汚れる事を嫌う。女子供だけではなく、誰もかれもに優しい。それが彼の優しさでもあり甘さでもある。それでも、否、だからこそ彼はボンゴレのボスなのだ。 処理班として綱吉の直属の部下となる前のの経歴を知る者はあまりいない。その時代によく見かけた嗜虐的な笑みを人前で表情として浮かべるのは本当に久しぶりだ。苦い顔をしているところが本当に、甘い。 の頼んだドルチェが来る前に二人は黒づくめの男達に囲まれる。銃を構えた男達は、二人の額に照準を合わせている。 「市街地でそんなものを取り出すなど、コーサ・ノストラの風上にも置けないわ。貴方がた、一体何処の所属なのかしら?」 「答える必要はない」 撃鉄の上がる音に怯える素振りすら微塵も感じられない。銃を突きつけられているとは思えない凛とした声。 「お前が守護者でないこと位把握している」 「そうでしょうとも、私はしがない掃除婦ですから」 そう言うとは手にしていたスプーンを置き、隣のフォークに手を伸ばす。自身の目前に掲げる姿はさながら忠誠を誓う騎士のようだった。 「少々お側を離れます」 「怪我しないでね」 「仰せの侭に」 その笑みは、ドルチェを舌に転がした時のように甘く。 彼女の武器は、ボンゴレ・クアールトと同じフォークである。それは彼女専用のドルチェフォークとして街中のカフェに置かれている。一見普通のフォークだが、ボンゴレお抱えの技術部が実際にボンゴレ・クアールトの使用していたフォークを参考に改良を重ね、炎を纏っても耐えうる強度に加工されている。勿論も(何故か綱吉と何人かの守護者も)常に肌身離さず持っているのだが、カフェに置くとこういった場面で重宝される。テーブルの上にあっても手に持っていても不自然でないということは、初期動作がゼロなのだ。敵に気付かれず誰よりも早く動くことが出来る。 「ここの処理はいかがいたしましょう。班員も数人なら都合が付きますが」 「んー、任務が終わったばっかりで悪いから別の処理班に任せるよ」 職業病というべきか。の場合後処理の事まで考えて立ち回るので大がかりな事後処理を必要としない。ただ、が動くときは今回みたいな市街地が多いので、多少の情報操作は必要となるが。 「ありがとうございます」 炎で覆って使用していたものの、フォークには僅かに返り血が付着していた。綱吉は彼女の手からフォークを奪うと自らの内ポケットにしまい、同じところから取り出した汚れていないフォークを通りかかったギャルソンの持つトレイに置いた。この町のカフェに勤める者は皆、彼女のフォークの意味も、彼女の正体も知っている。それでも彼女が敬遠されないのは、ひとえにボンゴレの力と彼女のドルチェの消費量だろう。 「では、獄寺さんに追いつかれる前に行きましょうか?」 何事もなかったかのように、ただ次の店に向かうのだけだというのに満面の笑みを浮かべる。彼女もボンゴレに名を連ねるだけあって、血の匂いが日常にしみこんでいる。血に濡れる姿が見たくなくて権力を使い前線から退けても、自分の側にいる限り、こういった事は避けられない。 それでも、手放したくないのだ。 「、その手に持ってるの何?」 「さっきのお店で食べれなかったズコットのかわりのベーニュです!揚げたてもらっちゃいました。ボスの分もありますよ?」 例え、ドルチェに負けても・・・。 「それ一口頂戴」「え、あ、はい」「・・・」「・・・」「うん、美味しいね」「美味しいんです!」((関節キスって気付いたかな・・・)) |