「さん」 秀徳高校の図書室は広い。進学校に名を連ねるだけあって普通の高校など比べ物にならない。どのくらい広いかというと、ジャンルによっては市の図書館を凌ぐ蔵書数を誇っている。文学、哲学の有名どころは勿論のこと、奥に所有されている寄贈本など授業どころか大学入試にすら必要ない専門書や英語以外の洋書も存在する。 「高尾君?」 それでも埃を被らないのは、図書委員と本の虫が在学しているからであり、の目の前に現われた男子学生の相棒と呼ばれる男がいい例だ。緑間は元々目を見張るような希少な蔵書を時折借りていたが、バスケ部を引退した今、頻度が上がり図書室で彼をよく見かける。クラスメイトであり司書よりも蔵書を把握している図書委員が、他人との交流が不得手な緑間と交流を持つ事に、周囲はそれほど違和感を持たなかった。 「こうやって二人きりで話すのって初めてだね」 「そうですね、緑間君なら今日は図書室で見かけていませんが」 「あぁ、うん。真ちゃんならさっき後輩に体育館に連れてかれたから」 クラスのムードメーカーである高尾とと物静かな、同じクラスになったことのない二人は、緑間を通じての面識しか無い。本を読むのが苦手と自称する彼が、今のいる図書室の再奥。返却された本を戻しにきたですら滅多に近付かない場所に、一体何の様があるのだろう。緑間とは彼の中学の友人と自分の本の読み方が似ているらしく、それをきっかけに少しずつ話すようになっていが、二人きりの時に会話をするのは初めてだ。 「、さん」 もう一度、今度はフルネームを呼ばれた。彼の持ち前の明るさがなりを潜め、いつになく真剣な顔に何か大事な話なのかと思い、持っていた本を脚立の上に置いて彼に対し身体を正面に向けた。高尾は少し間を置いて、それから高尾が意を決したように口を開いた。 「好きです、付き合ってください」 彼が真剣になる事、そして自分に話。てっきり緑間に対する相談だと思っていた。何で私に、そうは思うもからかわれているとは微塵も考え付かなかった。こういう冗談やイタズラにする人ではない事をは知っている。そして何より、珍しく彼から伝わる緊張が、視線を放さない真摯な瞳がそれを裏付けていた。 ふ、と彼の視線が柔らかくなった。 緑間曰く、彼はとてもおしゃべりだと言っていたが、口だけではなく目までも雄弁だとは知らなかった。 「ビックリしたでしょ」 「・・・はい」 正直に答えれば高尾がははっと笑い、この場の緊張が和らいだ気がした。 素振りなど微塵も感じなかったし、正直告白されたのは今日この時が初めてだ。 「まぁ、気付かれない様にしてたからね。だから、返事は直ぐじゃなくていいよ」 「え・・・」 「さんって俺の事真ちゃん経由でしか知らないでしょ?だから告白しといてアレだけど、もうちょっと俺の事知ってから返事くれたら嬉しいな」 指先を掬い取られ、手の甲に唇が触れるか触れないかの距離で鳴らされるリップ音。視線が合うと綺麗にウインクを返された。笑顔は見かけるものよりずっと優しく、そしてまだ少しだけ緊張の色が覗いていた。 「緑間君、相談に乗ってほしいんだけど」「何があった、顔が真っ赤なのだよ」 |