こうなると解っていたから逃げたのに











海軍時代は前線に出る事が殆どだったが、勿論報告書等のデスクワークもあった。海軍を抜けてからは常に自らの身と"お気に入り"と名付けた島を守るために戦っていた。
つまるところ、は海軍に所属していた頃より強くなっていた。

「女だからといって油断するな!相手は元海軍少将であり"カゼカゼの実"の能力者だぞ!」

軍艦に単身乗り込むを狙う銃弾は風により軌道を逸らされ、正面に撃ち込まれた弾も彼女に届く事無く墜ちる。
斬りかかる海兵を両手に持つ白刃で薙ぎ払い、艦を破壊する覚悟で撃たれた砲弾すら目前で止めた。

「私を誰だと思ってるの・・・?」

先程、シャンクスが発したものと違わぬ台詞を吐き出したの口の端が一層歪められる。気迫に圧され、覇気を操れる者ですら彼女と風の動きを読めず次々と倒れていく。
瞬きすら許されない速さで仲間が切り捨てられるのを見て、武器を持つ海兵たちの顔に恐怖が浮かぶ。それでも引く訳にはいかない。元上司だろうが、民衆を救おうが、目の前にいる女はもう賞金首なのだ。















「まぁ、随分と派手にやったもんだな」
「・・・」

乗っていた海兵の息の根を一つ残らず止めたの服は、相変わらず白いままだ。今まで戦場の真っ只中にいたというのに汚れどころか白い服に返り血の一滴すら浴びていない。

「ほら、次がくるぞ?」

応援を呼ばれ、次々と増える軍艦。どうやら目当てはの身柄の拘束、もしくは・・・

「部下への指示はよろしいのですか?」
「アイツらえら俺の指示が無くても勝手に動くさ。それより俺はお前が心配だよ、
「ご心配なさらずに・・・と言いたい所でしたけど、囲まれてしまいましたね」
「あぁ。お前一人に軍艦四隻とは随分と豪華じゃねぇか」
「おそらく貴方の姿が見えたから数を増やしたのかと・・・」

軍艦四隻を前に一切取り乱すことをせず会話するシャンクスと。勿論剣は抜き身のまま手に収まって入るものの、二人の間には緊張感が今一つ欠けていた。

「まあ、"気まぐれ"と共闘なんてそうそう在るもんじゃねぇしな。悪いが楽しませて貰うぜ」

シャンクスは新しいおもちゃを見つけたように笑う。

「確かにこの人数相手に一人はきついですね・・・"赤髪"の戦う姿、拝見させて頂きましょう」

もこの場にそぐわない柔和な笑みを浮かべていた。しかしその内側に狂気を孕んでいるのは彼女が発する覇気で判った。自らの目的の為なら人を斬る事すら厭わない。それと同等の、それ以上の覚悟を持たなければ海軍からなど抜けられないのだ。















綺麗過ぎるという事は相手に恐怖を与える。
の場合、海に生きる者にはあり得ない位見事に伸ばされた黒い長髪、そしてそれに見合う容姿。誰もが見惚れ、七武海の海賊女帝ですら嫉妬すると言われていた。常に絶やされぬ柔らかな笑みは美しさと共に彼女の余裕を表し、相手に一分の隙も与えない。
白い服も同じだ。の好んで着る服はシャツであれズボンであれ、形は異なれど常に白い。汚れやすい白をあえて着続ける彼女が、その色を汚した所をシャンクスは見たことが無かった。それは二人の出会った花咲き誇る春島から一度も、だ。
その彼女が今、自分と背中合わせに戦っている。これ程美しいと思った黒があるだろうか。これ程安心する白を見たことがあるだろうか。
今までに、ここまで惹かれる微笑みに出会ったことがあっただろうか。
先程まで見せていた余裕のある柔和な笑みとは違い、咽返る位色香が漂う妖艶な笑み。敵を一撃で仕留める姿を視界に入れれば視線に気付いたがこちらを向く。人を斬る行為に快感を得ているように恍惚として、それでいて場違いなほど無邪気に笑う。シャンクスも笑みを返すが、それでも二人の剣は止まらない。















戦闘の終わりを告げるかのように雨がぽつぽつと降り始めた。
返り血こそ浴びなかっただが、それでもむせ返るような血の匂いを纏いシャンクスと共に船へ帰還した。
剥き出しだった殺意は剣と共に鞘で抑えられてはいたものの、他の何か強い感情が二人から漂っていた。普段浮かべている笑みを消して終始無言で歩く二人に船員達は声をかけることが出来ないでいた。ベックマンも二人に怪我が無い事と間に流れる空気が険悪なもので無いことを確認するだけに留め、出航準備を始める。
自室にシャンクスが入り、もそれに続く。
が部屋の扉に鍵を掛けるのとほぼ同時に、シャンクスがを背後から覆いかぶさるように抱き締める。は身じろぐがそれは拒絶では無く正面から彼と抱き合う為だった。右手で後頭部と固定され噛み付く様なキスを受け入れながらはシャンクスの服に手をかけ、自らの服も脱ぎ始める。
隔たりに無くなった身体で再び強く抱き合った二人はベッドに縺れる様に倒れ込んだ。















酔い痴れることの愚かさと快感



(溺れる事が解っていたからこそ、早く逃げ出したかったのに)(手元に置くだけじゃ足りないと気付いたからにはもう離せない)