は戦闘が始まると、必ず何処かに行ってしまう。 それは海賊同士の小競り合いだろうと、海軍の襲撃だろうと。見張りが敵船の影を捉えるよりも早くは姿を消す。 最近はの姿が見えなくなると臨戦態勢に入る船員まで出てくる始末だ。 「がいりゃあ見張りいらずだな」 「お頭、それは仲間になればの話だろ?」 「まあな。まぁそれも時間の問題だろう?ベン」 ニカリと笑うシャンクスに、ベックマンは溜め息を吐く。 子どものような笑顔を向ける男は何も解っていないのだろうか、それとも全て知った上で嗤うのか。 が仲間となるのを拒む理由をベックマンは知っている。理由は彼女自身から聞いた。話し相手として選ばれたのは自らが海軍の出である事も関係していたが、が船に乗り続けることに良い顔をしていないのが最もな理由そうだ。彼女曰く。 「私の風は、近しい人間ほど傷つけるのよ」 宴の最中、背中合わせの距離に座る彼女がぽつりと呟いた言葉が、自分に向かって呟かれたものだと理解するのに少しばかり時間を要した。周囲が騒がしいとはいえ、場にそぐわぬ声色と内容に思わず辺りを見回したが、どうやら彼女の声が聞こえたのは自分だけのようだ。 どうやら風を操る彼女が自らの声の届く先を限定しているらしい。 「同期も巻き込んで殺してしまった。上司も、部下も殺した。守ることも満足に出来ない私を海軍は決して手放そうとしなかった。自我を持つ風を手駒として持っていたかったんでしょうね」 守りたいモノの傍を離れて守ることは難しい。が、彼女なら可能だろう。風はどこまでも吹く。 「傍にいれば、きっと傷つけてしまう」 「だからお頭を避けているのか」 「心配しないで、もう少ししたらこの船を離れるわ」 「・・・アンタはそれでいいのか?」 「あら、招かれざる客が出て行くだけよ。仲間でもない賞金首を囲う必要なんて何処にも無いわ。それにベン・ベックマン。私の存在は無駄な争いを呼ぶわ」 彼女の行っていることは事実だ。しかし時は既に遅く、今まで海軍のみに存在した"カゼカゼの実"の能力者が"赤髪"の手に渡ったという情報は既に世界中を駆け巡った。今更彼女が船を下りたところで、暫くその事実は消えないだろう。実際、襲ってくる敵が彼女の乗船により増えていた。 「、軍艦が目の前にいるが隠れなくていいのか?」 目前に佇む軍艦を前に、腑に落ちないシャンクスがに尋ねる。愛用の剣を背負う彼女の姿を見るのは一体いつ振りだろうか。普段とは違う彼女の行動に、嫌な予感がする。 「少々、思うところがありまして。申し訳ないのですが船長さん、私にこの船の相手、任せていただけますでしょうか?」 「駄目だ」 「何故でしょう?」 「俺の船に乗っている以上、俺の指示にしたがって貰う。仲間を傷つけたくないのなら、傷つけない戦い方をすればいいだけだ」 「・・・やはり、ご存知でしたか」 「俺を誰だと思ってる」 「その台詞、そのままそっくりお返し致します」 「あ?」 怪訝な表情を浮かべた顔を向けるシャンクス。と目が合うと同時に体に感じる違和感。 「まさか、!」 「風で出来た檻など直ぐに解かれると思いますが、足止めにでもなれば」 が助走もつけず軽く跳ねると、彼女の身体は軍艦から彼岸の甲板に降りたった。目標人物の突然の登場に動揺を隠せない海兵。 剣を抜き白刃を顕にする。 「恨みがあるわけでは御座いませんが、私の為に死んでいただきます」 場にも言葉にもそぐわしく無い笑顔が饒舌に物語っていた。 "気まぐれ"が、本気だと。 |