「貴方達、一つ前の島を覚えてる?」 黄昏時。とある夏島にある少し大きな港から街へと続く人通りの少ない道を歩く海賊団の前に、ふわりと笑った黒く長い髪の美女が現れた。白いズボンに白いシャツ、腰には似つかわしくない細身の剣が二本。 「花の咲き誇る、美しい春島じゃなかったかしら?」 不信感より美しさに見惚れた船長は、道を塞ぐ謎の美女の問いに鼻の下を伸ばしながら答える。 「あぁ、確かに花ばっかりの島だったが、それがどうかしたか?それよりお前、俺の・・・」 「荒らしたわね」 「あ?」 船長の言葉を遮り、女は怯む事なく話し続ける。 「島の人々が言ってなかったかしら?この島は彼女の"お気に入り"だって」 「そういやそんな事を言ってきた奴もいたなぁ。だが俺達は海賊。たかが女一人の"お気に入り"とやらに怯えはしねぇよ。第一、船が沈むのは呪いじゃねぇ、航海士の腕だ」 「そう。じゃあ、今から後悔してもらおうかしら。"気まぐれのお気に入り"であるあの島に手を出した事を」 は微笑んだまま、殺気を纏った。腰の剣を引き抜き、ゆっくりと海賊達に向かい歩く。 「おいおい、お嬢さん。そんな危ない物持っちゃいけないよ。何たって俺達は・・・」 言い終わる前に船長の首が飛んだ。 ゆっくりと船長の身体が崩れ落ちる。固まっていた船員の一人が切り掛かった。その男を筆頭に呆然としていた他の船員も一気にに向かう。 しかし直ぐにそこは血の海に変わった。は返り血を一滴も浴びていない。 「まさか、お前・・・」 一人だけ息の根を止めなかった。 残したのは恩情ではない、広める為だ。 「逃げなさい。そして伝えなさい。"気まぐれのお気に入り"に手を出したら、こうなる事を」 剣を突きつける。悲鳴を上げて逃げ去る海賊を見つめながら、は溜息を吐いた。 以前なら、島を出た時点で嵐を起こし、海賊船を沈めていたのだが、自分の力を過信する海賊が増えたのか、が"縄張り"と称する島に騒ぎが起こる事が増えた。 自分の名が広まるのは好まないが、船が沈むのを偶然で片付けられては困る。 「もう少し派手にやった方がいいのかしら」 呟きながら刃に付いた血を取り出した懐紙で丁寧い、血を吸ったそれを無造作に放る。ひらひらと舞う懐紙は船長の顔を覆う様に落ちた。 「行かなきゃ」 春島から、風が運ぶ声に耳を傾ける。被害は大きく無いらしいが、姿を見せた方がいいだろう。今日中に宿を引き払おう。風を使えば、三日とかからずに着く筈だ。 もう少しだけ春島周辺を探ると、近いうち春島を訪れるであろう船は二隻。片方は軍艦だが、もう一隻はわからない。 は元来た道を戻る。すっかり暗くなった道には、海賊だった男達の残骸だけが残された。 |