「、コーヒー入れて」 友人の住むマンションに仕事帰りにふらりと立ち寄ると、情報屋など胡散くさい職業を生業とする彼、折原臨也はパソコンから目を離さずに私にコーヒーを要求した。 「浪江さんは?」 「帰ったよ」 最近彼が雇った優秀な秘書が淹れておいてくれたらしいポットの中のコーヒーは保温され続けてエグくなっていたので捨てた。自分の分もついでに淹れる。臨也はブラック、自分はミルクたっぷり。私が来るときに必ず牛乳があるのはきっと偶然ではない。臨也は私が仕事で嫌な事があったの位お見通しだ。そんな時に彼のマンションを訪れる事も。これは自惚れじゃなくて、真実。 コーヒーを目の前に差し出すと、臨也は画面を見たまま無言で受け取った。私はソファに座る。 会話は無い。パソコンの機動音と時折混じるキーボードを叩く音があるだけのこの時間が好きだ。ささくれ立っていた心が落ち着く。 「」 いつのまに後ろにいたのだろう、ソファの背越しに臨也に抱き付かれた。臨也が私の首に顔を埋める、もう一度名前を呼ばれると、吐息が首筋にかかる。 どちらからともなく始まる行為は不思議な事に今までに一度も拒んだ事も拒まれた事もない。恋人なんて甘い関係ではない。私達が身体を重ねる理由なんて相性がいいからというだけだ。そこに心は無い。 「あんま優しくしないでよね」 「どうして?」 臨也はブラウスのボタンを外し服の中に手を入れる。素肌に辿り着いた指先が思ったより冷えていて身体が撥ねる。ほんの少し。どうせ最後にはどろどろに溶かすくせに臨也はまるで壊れ物を扱うかのように私に触れる。 「は酷くされるのが好きなの?」 「そうじゃないよ」 そうじゃない。優しくされて、愛されていると錯覚するのが嫌なのだ。巧妙に情報を操り、人を簡単に陥れるこの男に、人間という単位ではなく個人として愛される事など無いと知っていてそれでも望んでしまう。 いつか、彼に愛される日が来るなんて思ってはいけないのだ。 |