主役になれない脇役でも貴方の目に映るのなら構わない











行事の多い季節になった。夏休みが明ければ体育祭、文化祭。それをはさんで中間考査、修学旅行と生徒会は休む暇が無い。
加えて生徒会長であるは恋人の折原臨也並びに平和島静雄の戦争を唯一止められる人間として教師陣から重宝され、最近は校内だけでは無く池袋の街からも助けを求める声が挙がるようになった。時折校内で二人を正座させている姿を目にすることがあるが、確かにアレをさせられるのは彼女しかいない。
そんな彼女が忙しくない方が可笑しい。多忙にも程がある。女生徒一人が担う量じゃないが、忙しさに不平を言う事無く笑みを絶やす事無く仕事をする姿は賞賛に値する。実際、崇拝する輩も多い。

「会長、会長!」
「何かしら?」

自らを呼ぶ声に凛とした姿勢で廊下を闊歩していた女生徒が振り返る。中世的な顔立ちに意志の強い瞳、肩より少し長い黒髪がさらりと揺れ、誰もが見惚れる笑顔で呼び止めた男子生徒を見遣る。同性を含む一般生徒ならここで頬を染めるか逃げ出してしまうが、肝心の男子生徒は生徒会長である彼女を補佐する任に就いているので既に慣れてしまった彼女の言動に動揺する事は無い。少なくとも表面上は。

「先程の会議の資料です。」

手渡されたのはつい先程まで議論を交わし、出てきた筈の会議室。

「あら、持っていたつもりだったけど」
「こちらは文化祭の体育館使用スケジュールです。決定したものなので実行委員会に渡してください」
「わかったわ、ありがとう。ところで副会長」
「何でしょう、会長」
「私、今から何処に行こうとしたんだっけ・・・?」

訂正しよう。彼女は疲れていた。

「とりあえずお手持ちの資料を文化祭実行委員室へ持って行ってください。その後は帰宅していただいて結構です」
「仕事はまだ残ってるでしょう?生徒会室に戻るわよ」
「いえ、今日は雑務も少ないですし、急ぎの書類もありませんので大丈夫ですよ」
「でも・・・」
「大丈夫ですのでお帰りください」

強めに言うと多少凄みが出たのだろうか、あっさり彼女から折れてくれた。
毎日彼女の補佐をしていれば体調の良し悪し位は解る様になった。精神面はそう簡単にはいかないが、少なくとも負担になる言動は避けられるようになったとは自負している。
それ故か最近、彼女に対する周囲の見解と自分の考える彼女の姿が重ならなくなった。

「最近、校内の施錠が緩いとの報告がありますので、会長もお気をつけて」
「ありがとう」

間違っているつもりは無いのだが、誰にも言う気にはなれなかった。










「あれ?帰っちゃうんだ」
「折原・・・臨也」

彼女を廊下の角まで見送り、再び歩き出そうとした時、背後から気配も無く声がした。

「俺も一緒に帰ろう。お疲れ、副会長」
「待て、折原」
「・・・何ですか?」

表情上は笑みを繕ってはいるが、見下すような冷たい視線が送られる。その瞳は雄弁で、こちらの干渉をこれ以上は許さないと物語っていた。

「お前は、会長の何なんだ」
「恋人でしょ?」
「表面上は、の間違いだろう?」
「・・・流石は副会長、の右腕と揶揄されるだけあるね。聡明な副会長殿には特別にその問いに答えてあげるよ」

面白い物を見たかのように彼が笑みを深める。自分達の関係を見破られた事が楽しかったらしい。が、決して嬉しそうではない。

「お察しの通り、俺達は恋人という形の契約を結んでいる。君の事だから薄々感づいていはいるんだろう?が人間を嫌いだって。彼女はそれを克服する為に俺と付き合ってる。俺は生徒会長の恋人と言う立場を利用する為に彼女の傍にいる」

他の人間がいたら即座に否定するような台詞だったが、おそらく彼の言っていることに間違いはないのだろう。それは自分の抱えていた疑問を拭うのに十分な言葉だった。しかし自分の中には未だ違和感が残る。何だ、何処だ、何故だ。

「じゃあね、副会長」

その違和感の正体を突き止められず、会長を追う彼を止める言葉を持たない自分はただ後姿を見送るしか出来なかった。暫くその場に立ちすくんでいたが、ふと窓の外を見ると、二人が並んで下校する姿が目に入る。今までにも何度か見た事のある光景に、その日は胸がチクリと痛んだ。










後にその理由が解けたが、それを遅いとは思わなかった。
所詮、初恋など叶わないものなのだ。