「あら、どうしたの?貴方がそんな顔をするなんて珍しいじゃない」 「、彼が誰だか知っているんだろう?」 「さあ・・・?」 にっこりとさんは本当に楽しそうに笑い、俺を隠す様に自分の背後に立たせた。女性に守られるなんて俺のプライドが許しそうにないが、彼に対しては彼女の方が圧倒的に有利、従った方が得策だ。 「流石はさんって本当に臨也さんの扱い方を心得てますね」 「ありがとう、正臣君」 沙紀と付き合い始めた頃、彼女から聞いた事があった。あの折原臨也に恋人がいた事を。 それを聞いて何故別れたかというより二人が付き合うに至った経緯が気になったのを覚えてる。そして、その疑問は目の前にいる彼女から全て聞いて知っている。とは言っても理解できるものではなかったが。 今なら解る、あの時病院で彼が自分に言った言葉が。彼にも変えられない過去があったのだ。変える事の出来ない過去が、会ったのだ。 彼女は折原臨也の『神様』だ。 に会い、会話をして、二人の関係を聞き正臣は確信した。そして彼女は、目の前の男より自分の友人を選んだ。誤意はあるかもしれないが、そういう事だろう。 彼女との出会いは春にまで遡る。 春先、沙紀と共に病院を出た途端、知らないアドレスからに送られた一通のメール。内容は『折原臨也の駒になれ』と簡潔過ぎる一言。メールの主に何者かと問えば、次に送られてきたのは写真が添付されたメール。恐る恐る開いてみたが、写真を見て愕然とした。そこには臨也の穏やかに眠る姿が写っていたのだ。最初彼の秘書かと思ったが、それ程心を許してはいないだろうと思い、その考えを否定する。 沙紀に見せたら彼のこんな無防備な姿は初めて見たと言う。鏡に映る撮影したと見られる人影を見つけ、沙紀に見せると驚き、「さん・・・」と呟いた。 沙紀は件の女性の写真を見た事があるらしい。一度だけ、それも臨也が見せたのではなく偶然見つけたのだと言う。 「臨也さん、この写真の人は誰ですか?」 臨也のマンションで、沙紀が本棚の中から何気なく取った本。彼が高校時代使用していた教科書だった。内容は中学生の沙紀にはまだ理解できなかったが、パラパラと捲っていると封筒が挟まっていた。中身を見ていいものか悩んだが、好奇心が勝り、封を開ける。入っていた写真に写っていたのは、カメラへ目線を向け笑っている彼と、一人の女性。 同じ歳だろうか、二人とも学生服を着ている。笑顔を、しかしどこかいつもと違うそれを浮かべる臨也に対し、恥ずかしげにカメラに向かいはにかむ女性には見覚えは無かった。彼の周りに自分と同じ位の歳の女性の影はあったが、彼自身と同じ歳の女性は知らない。 「あぁ、そんな所にあったんだね。貸して」 沙紀の問いには答えず、反論は許さないという雰囲気臨也に沙紀は大人しく写真を渡す。 「どうぞ」 「ありがとう」 にっこりと笑い臨也は写真を一瞥するとライターで火を付けた。 赤い火に包まれ、あっという間に灰になる写真。臨也の表情は変わらない。 「綺麗な人ですね」 「そうだね」 変わらない口調。それでも写真は確実に彼の心を揺さぶっていたのに、沙紀は気付いていた。 「彼女はね、俺の恋人だった人なんだ」 大切だったんですね。そう言おうとして止めた。 写真の女性を見た時、ほんの僅かだが、彼は傷付いた様な顔をしていた。 それを見て沙紀は写真に写る彼の笑顔の違和感に気付いた。臨也はいつも楽しそうに笑っている、しかし写真の中の彼は彼女の隣で幸せそうに笑っているのだ。 |