彼も彼も怒っています、実は彼女も怒っていたり











「やあ新羅」
「またかい?今日は奥で怪我人が寝てるから早く帰ってもらうよ」
「へぇ・・・新羅の所へ来るって事は訳有りな患者なんだね」
「全く、あまり興味を持たないで欲しいな。治療するから君の怪我を見せてくれ」

今日もそんな時間か。
そう思いインターフォンの鳴ったドアを開けると、予測していた二人のうち黒髪で人を見下すような笑い方をする方が立っていた。まあ、一人なのは当然だ。二人で来られたら僕とセルティの愛の巣が崩壊する。
臨也と静雄の殺し合いという喧嘩は今日も勝負は付かなかったようだ。臨也の治療が終わると、奥にいる患者の為彼を早く送り出そうとする。見つかったら一騒動起きるのは確実だ。もう一度言うが、僕とセルティの愛の巣が崩壊する。

「何?俺に見られちゃまずいものでもあるの?」
「いや、そういう訳じゃないけど・・・」

私としたことがうっかり口ごもってしまった。僕が反応を示したことで笑みを深め問いただそうとする臨也からどう逃げようか考えていると、僕の心を悩ませる扉の奥の原因が扉を開けてしまった。何でそう、タイミングを見計らった様に出てきてしまうんですか、会長。

「新羅、今日はありがとう。明日学校だしもう帰るわ・・・って臨也?」
が患者?」

会長。そんな恨めしい目で見られても貴方のタイミングの悪さが原因ですから俺に助けを求めないでください。そういう風に視線を返すと、会長は諦めたように溜め息を一つついた。貴方のその物分りのよさが好きですよ、会長。

「またあなたたち二人喧嘩したの?」
「会長、この二人の場合喧嘩じゃなくて殺し合いですよ。丁度良いじゃないですか、臨也に家まで送ってもらえば」
「大丈夫よ、一人で帰れるわ」

袖を通さずに肩に上着を羽織り、荷物を持って玄関に向かい歩き出す会長の肩に臨也がやんわりと、しかし逃げられないギリギリの力で手を置き、彼女を制止させた。

、送るよ」
「本当に大丈夫だから・・・っ痛!」
「ほら、ちょっと歩いただけでこんなに痛がってるじゃないか」
「会長、明日学校行くのを本当は止めて欲しいんですから、今日は絶対安静ですよ。勿論その荷物を持つ事も止めて頂きたい位には」
「・・・」
「決まりだね。じゃあ行こうか」

会長が何も言い返さないので、臨也と二人で強引に話を進める。
流石の臨也も怪我人には優しいのか、彼女が恋人だからなのか。多分後者だが、どちらにせよ会長の腰に回された臨也の腕は下心というよりは気遣いと労りが見えた。しかし医者(になる予定)とて彼に彼女の状態を臨也に忠告しなければならない。例え口止めを要求した相手が来神高校最強と呼ばれる生徒会長だとしても。

「臨也、会長腹部に穴開けてるから腰は持たないほうがいいよ」
「は?」
「新羅・・・言わないでってさっき釘を刺したばかりじゃない」
「友人としては言ってませんよ。これは医者としての忠告ですよ。全く、いくら商売道具だからといって手の代わりに腹を差し出す人間なんて会長位しかいませんよ」
「・・・悪かったわね。春に手を怪我した時に顧客に大騒ぎされたのよ」

私は臨也に幾つかの薬をの代わりに渡すと、下に車を呼んであると告げ、二人を送り出した。










マンションの下にいたタクシーにを乗せ、臨也も反対側から乗る。背を座席に預けて座るの頭を引き寄せ自分の肩もたれ掛けさせた。いつもなら触れるだけで身体を強張らせるが今日は大人しい。彼女を見ると額に嫌な汗が浮き、浅い呼吸を繰り返している。痛み止めが切れたのだろうか。

?」
「・・・」

反応が無い。意識がはっきりしていないのは危ないのかもしれないが、何かあったら新羅を呼べばいい。










腹部の痛みに目が覚めた。
視界に写る景色はまだぼんやりとしていたが、今自分の見ているものが見慣れぬ天井だというのに気付く。それと同時に、男の顔が視界に入った。

「ここは・・・?」
「ああ、気が付いた?ここ俺の家。自分のマンションの住所言う前に意識飛ばしちゃったから。新羅から貰った薬飲める?鎮痛剤入り睡眠薬」
「臨・・・也?いま、何時?」
「夜の八時」
「ダメ、急がないと・・・私のパソコン、何処?」

起き上がろうとして傷の痛みに呻くの背中にそっと手を回し、彼女の上半身をゆっくりと起こす。足元に置いておいた彼女の荷物を渡すと、は鞄の中からパソコンを取り出した。
目にも止まらぬブラインドタッチ。開かれていく大量の情報達は勢い良くスクロールされる。これを読んでいる彼女の顔は青白く、額には油汗が浮いていた。臨也にとって今の状況は彼女の仕事内容を知る良い機会だったが、小刻みに震えるの身体を支える事を優先させた。
やがて小さく息を吐き出すと同時に、臨也の背中にまわす腕に再び重みがかかった。急ぎの仕事がひと段落ついたのだろう、彼女の腿に乗るパソコンをサイドテーブルへ移し、の身体を再びベッドへ横たわらせた。

、薬を」
「今は、いいわ」
「震えてる人間が言う台詞じゃないよ。熱も出てきたみたいだし、飲んでから寝なよ」
「でも、ここで寝るわけには・・・」
「あのさぁ、。契約とはいえ俺達は恋人なんだから、もう少し甘えてくれても問題無いんだよ?きっとの事だから此処が俺の家だからとか夜遅いとか明日学校ある事とかそういう事しか考えてないんだろうね」

「・・・臨也は、何処で寝るの?」
「リビングにソファがあるし、が淋しいなら隣で寝てもいいよ?」

馬鹿、と呟かれた声は普段の彼女からなどとても想像つかない位小さい声だった。ゆるゆると自分の方へ伸ばされたの手を優しく握る。臨也は空いているもう片方の手を使い、新羅に渡された袋から薬を一粒だけ取り出した。

、口開けて」

まどろんだ彼女の瞳が臨也の姿を捉えると同時に無意識に開かれた唇。臨也はの口に薬を押し込むと、用意しておいた水を臨也が自身の口へ含ませ、に覆いかぶさった。
いつの間にか後頭部に添えられた手が逃げ出すことを許さない。口移しで生温い水を注がれ、上手く飲み込めずに溢れた水が、口の端からだらしなく零れてしまう。気道にまで入ってしまい咳き込むが、目の前の男はその行為を二度、繰り返した。

「っ、んぅ・・・」

完全に薬が嚥下された後でも、臨也はの唇を離さなかった。後頭部を支えていた手はいつのまにかのもう片方の手首をもベッドに縫い付けていた。角度を変え、舌を絡め取り呼吸すら許されない強引なキス。
の反応が薄くなってきて臨也がようやく唇を離すと、彼女の意識は薬の所為で半分程飛んでいた。

・・・」

怪我人に対し少し強引過ぎた。罪悪感はあったが後悔はしていない。
自身の傍でこうも弱い姿をさらけ出してくれるのなら、など何度だって傷つけばいいんだ。










「やあ臨也、会長の体調はどうだい?」
「どうしてそれを俺に聞くんだい?本人に聞けばいいだろう?」
「だって会長、昨日臨也の家に泊まったんだろう?さっき会長から今日休むって連絡貰った時に聞いたよ。放課後診察しに行くから」
「・・・へぇ」