目的の為ならば目の前の人間すら切り捨てる











セルティは正面のビルに立つ人影を凝視していた。直接の面識は無いが知ってる顔だ。確か、最近池袋に戻ってきた開錠屋。新羅の高校時代の先輩。今はどうか知らないが、あの折原臨也の恋人だった気がする。
彼女もダラーズの一因なのか?しかし携帯を見ている気配がない。こちらの存在に気付きつつ、なんの反応も示さないという事は少なくとも敵でないのだろう。どちらにしろ何もしてこなければ今の私には関係ない。そう判断してセルティは眼下に集中した。










ビル越しで黒バイクと遭遇した日の夜、事の顛末を見届けずは臨也のマンションに帰宅した。ここ数日、深夜に『開錠屋』の仕事が立て続けに入っていたため、疲れていたはシャワーも浴びずそのままベッドに倒れこんで寝てしまった。静雄から『ダラーズ』が初集会を行うとメールを貰い、いてもたってもいられなくなったのだ。『創立者』である彼の情報を手に入れ、浮かれていたのかもしれない
だから知らなかったのだ。臨也があの場所に居たこと、彼を頼って客が来ていたこと。
珍しく遅くまで、とは言ってもまだ朝と呼べる時間帯にが目覚めると、臨也が隣で寝ていた。いつベッドに入ってきたのか気付かなかったが、ベッドは彼のものだし、一人が寝ている間にもう一人が潜り込むのはいつもの事だったのでは特に気にしなかった。彼を起さないようにベッドを抜け出し、バスルームに向かう。
熱めのシャワーを浴びると、意識が覚醒すると同時に昨夜の光景を思い出す。
首なしライダー、若すぎるダラーズの創立者、異常なほど膨れ上がった『ダラーズ』のメンバー。臨也のここ数日の言動を見ていると、裏で何かしら糸を引いているのだろう。
今日は仕事も入ってないので外出する予定は無い。は簡易な服装でバスルームを出ると、リビングに見知らぬ女性がいた。彼女はこちらを振り向き、少し驚いたように目を見開く。

「どちら様?」
「・・・折原臨也の同居人です」

依頼人だろうか。だとしてもも臨也の仕事場を兼ねた此処に同居しているので事前に連絡は来る筈だ。良く見ると目の前の彼女は見覚えがある。確か、昨晩・・・

「ああ、。おはよう」

今日は遅いんだね、と自分より遅く起きた人間に言われると何故か腹が立った。

「臨也、お客様が見えてるわよ」
「ああ、違うんだ、彼女は「新しい恋人?」・・・違う」

一番楽しそうな可能性は珍しく即否定された。

「彼女には俺の秘書になって貰おうと思ってね」
「矢霧波江よ」
「『開錠屋』、です。どうぞよろしく」
「・・・よろしく」
「あ、そうだ波江さん、は俺の恋人でここに同棲してるから」

一応営業スマイルで応対するに、波江は何も言わず淡々とした口調で返す。そんな二人に笑いながら臨也が間に入る。臨也はの肩に手を置こうとしたが、がふらりとかわし、ソファに目を落とす。

「臨也、これ、何?」
「え?ああこれ?」
「まさか・・・デュラハンの首?」

その『首』を手に取ろうとしたら臨也に奪われた。どうやら間違いじゃないらしい。ここに首だけがあるということは、昨日の首なしライダーはデュラハンなのか。

は相変わらずそっちの方に博識だねぇ。見られちゃったから仕様が無いけど俺はこの首を使って実験したいことがあるから邪魔しないでね。って言ってもきっとはまた俺の邪魔をするんだろうねぇ。自分の身勝手な主義を他人に押し付けて、自分の身を捨て駒のように扱うんだ・・・昔みたく」
「あなた達二人の殺し合い一体どれだけの被害が出たと思ってるの?私の居ない間、誰も止めなかったからって自由にやりすぎよ、臨也」
「自分も非合法な仕事をして誰かを傷つけているのにその正義面は昔と変わらないんだね。人間が嫌いな癖にどうして助けようとするんだい?さっさと俺の事愛せば俺以外の事考えなくても済むのに、どうしてこうも強情なんだろうねぇ」
「私は、人間を愛したいから、傷ついて欲しくないだけよ」
「それが偽善だって言うんだ。人は何もしなくても勝手に傷付き落ちていくものだ。俺はそれを自分の望む方向に落ちて貰いたいから背中を押すだけだよ、落ちることには変わらない」
「ちょっといいかしら」

臨也との会話に波江が割り込む。

「ああ、波江さんはこのファイルの名簿と棚に入ってる上から三段目の黄色いファイルの中にある名前が一致する人間に宛てて封書作っておいて、封はまだしなくていいから、その下にある黒い封筒に入った書類は粟楠会の四木さんに送るからそれも宜しく」

視線をから逸らす事無く淡々と指示をする臨也に波江は呆れながらも従う。
暫く二人は何も言わず互いの視線を絡めていたが、珍しく溜め息を漏らした臨也が先に目線を逸らした。

、どうして外国に?」
「・・・まさかそれを聞かれるとは思わなかったわ」
「あのねぇ、契約とはいえ仮にも付き合ってた彼女が何も言わずに居なくなったら流石の俺でも驚くよ。卒業式が終わって彼女の家に行ったら家具も何も無くなってる部屋にダンボール三箱と置手紙一枚って結構ショックだったんだけど。しかも何?荷物預かって置いてってそれだけしか書かれてないしダンボール箱俺に運ばせるつもりだったの?郵送してくれれば良かったのに」
「本当に何も聞いてないのね」
「誰に聞けばよかったんだい?シズちゃんなんか俺がを振ったからが傷心旅行をかねて外国にいったと思ってたんだからね」
「神話とか伝説に関する論文書いてたら新羅のお父様に拉致されたのよ。それからヨーロッパ各地を転々としてたんだけど用事が出来て戻って来たのよ」
「用事って」
「言えないわ」
「探っても?」
「構わないけど、臨也が私の邪魔をしたら命の保障は出来ないわ」

の瞳に暗い色が宿る。自称非力な平和主義者な彼女に相応しくない、しかし彼女の本質を映す瞳に臨也はぞわりと身体が粟立つのを感じた。の殺気を肌に感じながらも臨也は思わず自虐的な笑みを浮かべる。

に早く愛してもらうべきだったかな」
「そうしたら私はあなたの敵にはならなかったものね」

彼女の持つ本性を曝す日は、そう遠くないかもしれない。