雨が窓を叩き付ける音で目が覚めた。 ベッドには自分以外に人の気配は無い。この家の主は昨日このマンションに戻らなかったようだ。 はベッドに散らばる髪を後ろに一つにまとめ、リビングへと足を向ける。 時計を見ると夜が明ける間際の時間だったが、雨に遮られて普段より空が暗い。 窓際に立つ。雨が窓を殴りつける様に降っている。実際、日本にスコールと呼ぶべき雨は降らないが、それに近い状況だとは思った。 もうひと眠りする気にもなれなかったのでシャワーを浴び、身支度を整える。 今日、のスケジュールは空白だった。開錠の仕事も無ければ人と会う予定も無い。昨日まは街をぶらぶら歩くか、買い物をしようかと悩んでいたのだが、この雨を見て外出は諦めた。別に強行しても良いのだが、たまには家で無為に時間を過ごすのも悪くないだろう。 二人掛けのソファを悠々と占拠してそんな考えを巡らしていたはふと、携帯を開いてある人物に電話をかけようとして止めた。この時間では彼女でもまだ寝ているだろうと思い、メールにする。 キッチンでコーヒーを淹れている間に返信が来たらしく、テーブルに無造作に置いていた携帯がチカチカと光り着信を告げていた。 先程メールを送った相手からの返信だった。書かれている内容は至ってシンプルで、了承を告げる一文のみ。 一人の男を通じて知り合った二人だが、仲が良いかと問われれば肯定するのに逡巡するが、悪いのかと聞かれれば否と答えられる。 互いに無関心なだけなのだ。ほぼ毎日顔を合わせているのにも関わらず、だ。一人は愛する弟以外の存在は自らと弟の邪魔をしない限り関心を持たず、もう一人は人間に対して愛を始めとした殆どの感情を持たない。余談だが男との関係は前者が上司と部下、後者は偽りの恋人同士、そして自分だ。 それでも弟以外に関心を持たない恋人の部下に一度だけ聞かれたことがある。「何故」と。 あの日は仕事の関係で酒が入っていて機嫌も良く、男も居なかったので本当の事を話した気がする。 「珍しいわね、貴方がお酒を嗜むなんて」 「私だってオジサマ方のお誘いを断れないときもあるんですよぅ!これでも逃げて来たんですからねっ!」 「、貴方ネカマ口調になってるわよ」 「波江さんったら酷いっ!甘楽と違って私は心も体もオンナノコですー!」 「・・・そうだったわね」 「そうですよぅ!」 魔がさした、とでもいうのだろうか。波江は普段自分の事を全く話さない、上司である折原臨也に聞いてもはぐらかされ自ら調べても一向に情報の出てこない目の前の女性について、問えば何か返ってくるのだろうか。 「、どうしてあの男を選んだの?」 折原臨也と付き合っている、仕事が開錠屋であることを除けば一般人と何ら変わりない常識人であろうについて知りたい事は山のようにあったが、一番の疑問を投げかけてみた。 は直球の質問に軽く目を細め、口に優雅な弧を描き、笑みを深める。 「フフフゥ!私が人を愛せないからですよ!」 「・・・え?」 「だーかーら!私が人間が嫌いなんです!人と関わることも人と生きることも人に愛されることも全部全部イヤなんですよぅ!でも臨也はどんな人間も愛してるから私が臨也に愛されてる間にも彼は他の人間を愛してるんですよ。しかも歪んだ形で。そんな臨也を見てたら私なりの人間の愛し方が見つけられるかもしれないって思ったんです!」 「貴方達、そんな理由で付き合ってたの・・・?」 「そうですよ!私達は恋人という形の契約をしてるんです、お互いの利害が一致している間は、ね」 聡明な筈の彼女だったが、目の前で楽しそうに笑う上司の恋人に何を言われているのか一瞬では理解できなかった。というか理解の範疇を超えている。 強引に結論付けると、この二人はあまりにも歪み過ぎた二人だからこそ今の関係が成り立っているのだ。他の誰かではありえない。 「貴方も随分歪んでいたのね」 「波江さんも中々だと思いますけどねぇ」 もうすぐ帰ってくるであろう男の為に、タオルでも用意しておくのが恋人の在るべき姿なのだろうか。彼の部下には休暇を与えた。たまには自分が彼の仕事を手伝うのもいいだろう。 半ば強制的に始まった関係ではあったが今はもう不満も不安も無い。愛というものを理解出来たとは思わないが、臨也と共にいる事は心地良かった。 歪んでいる事の何が悪いのだ。 誰にでもなく毒づくと、は洗面所にタオルを取りにソファから腰を浮かした。 |