会長、普段受け身ならちょっと位攻めてみたらどうですか?











「臨也」

背後から愛しい彼女に名を呼ばれ、臨也はパソコンから目を離し振り向いた。
自分と彼女の視線が交わる。は珍しく困ったような、戸惑いがちな表情を浮かべ臨也を見つめていた。
そんな顔をさせる理由が思い至らない臨也は彼女に直接訳を尋ねようとした、が、それは言葉を紡ぐ前にによって遮られた。










彼が愛する人間達、その中で最も興味を注ぐ目の前の女性は一見普通に見えるが、人間として最も大切であろう感情を持っていない。だからこそ二人は仮初めの関係、契約上の恋人としての立場に居続けられるのだろう。一時と言うには長すぎる別離があったが、それでもこの曖昧で歪んだ関係は揺るぎはしたものの決して崩れる事はなかった。
只一人を除く人間全てを愛する臨也、愛される事は出来ても人間を愛せない。対極に位置する二人が付き合うことは始めこそ波紋が大きかったが、磁石が互いを引き合う様に彼等もまた引き合ったのだろうと、周囲はそう結論付け、受け入れた。
実際二人が何を思い、何の為に恋人になったのかを正確に知るのは当事者二人のみだが、肝心のこの二人が誤解を解くつもりがないので真実は時と共に埋もれていく。

「あら、どうしたの?顔が赤い様だけど」
「・・・なんでもないよ、波江」

タイミングよく席を外していた秘書の指摘にいつもの様な皮肉交じりの言葉も出ない。自分が思っていた以上に動揺していることに気付き更に驚く。波江が戻ってきたのは丁度が自分の座っていた席に戻った時だったので彼女は雇い主とその契約上の恋人の間に何が起こったのかを知らない。

「はぁ・・・」

珍しく、本当に珍しく臨也は疲れたように大きな溜め息を吐いた。その様子にほくそ笑む女性が一人、興味なさそうに仕事を再開させる女性が一人。
携帯を取り出し、馴れた手つきで短縮番号を押す。数コールで聞こえた声は、数少ない友人のものだ。

『やぁ、珍しいね、君から電話が来るなんて。急患かい?』
「新羅、君だろう?に変な情報与えたの。止めて貰えないかな、今回は流石の俺でも負けを認めざるを得ないんだけど」
『お、その様子だと早速実践したんだね、流石会長は仕事が速い!会長!貴方の勝利を祝ってこれから一曲歌いましょう!』
「は?酔ってるの新羅、っていうか何歌い始めてるのさ。まあいいや、ともかく金輪際にそういう事教えるなよ」

受話器から聞こえるうたごえを完全に無視し、臨也は言いたい事だけ言って電話を切った。

「波江、もう上がっていいや」
「あら、今日はずいぶん早いのね」

言われた皮肉にちらりと目線をやれば、既に有能な秘書は帰宅準備を始めていた。

、貴方ずいぶんと楽しそうな事をしたみたいね」
「おかしな話ですよね。忙しいのにわざわざ波江さんを返すなんて」
「不用意な言動には気をつけなさい」
「まだ明るいですが帰り道はお気をつけて」

成立しているようで食い違っている二人の会話に思わず臨也が苦笑する。この二人の場合、互いが互いの言いたい事を言っているのだ。勿論頭の良い二人だから互いの言いたい事は理解している。要件のみの会話は傍から見ていれば少々滑稽だ。










「で、。さっきの行動の意味が理解できないんだけど」
「新羅に教えてもらったのよ。私達のこの関係、マンネリなんじゃないかって言われてそうかもって答えたらこうするといいって」
「だからキス?まあ、俺としてはが積極的になるのはありがたいけどね。で、これが何でマンネリ解消になるって?」
「ギャップ萌え」
「・・・あ、そ」