深夜の新宿、マンションの一室に二人の男女。 二人はそれぞれの持つパソコンから目を離さない。短い会話だけが時折交わる。 「アメリカで新しいウイルスが見つかったって記事があるけど」 「その情報頂戴。あと私の居ない間に東京都内で起こった事件と建った建物の一覧」 「人使い荒いのは相変わらずだね・・・」 画面から顔を上げ、彼女の姿を視界に入れる。 は臨也達が高校を卒業した日に姿を消した。外国へ行ったということまでは突き止めたが、それ以上は手掛かりすら無かった。平和島静雄には自分の所為でが外国に行ってしまったと思われていたが、彼女が何を思い日本を離れたのかは臨也も知らなかった。 「イタリアで新しいタイプの金庫が出来た情報はいるかい?」 「それなら現物見てきたからいいわ。アメリカで出たそのウイルスと対策のレポートって見れる?」 「・・・何処へ行ってたか聞いても?」 「あら、臨也ならてっきり調べ尽くしたかと思ってたわ。ヨーロッパ各地を転々としてたのよ」 「転々としてれば情報も集まりませんよ」 「残念、あなたが取り乱すのを見てみたかったのに」 パソコンを閉じたがソファから立ち上がりこちらに近付く。 頭上に顎を乗せられ、脇から伸びてきた両腕により臨也の頭はの胸元に引き寄せられた。 臨也は目を閉じて彼女の温度と鼓動に身を委ね、もまた数年ぶりに会う臨也の頭の手触りに酔いしれていた。まるで恋人達の戯れのように。 実際、折原臨也とは高校時代、周囲から恋人同士と認識されていた。しかしそこに至るまでの経緯は互いの利害関係が一致したからというだけで、決して甘い感情からではない。それでも世間一般の恋人達が愛を確かめる行為は一通り経験していた。 「最後にひとつ」 「何でしょう?先輩」 「『ダラーズ』、知ってるでしょう?創始者の居所、知らない?」 臨也はその名を聞き、ゆっくりと目を開いた。 『ダラーズ』、それは最近臨也が興味を示したカラーギャングであり、臨也自身も水面下で動き始めた。昨日帰国したばかりのがその言葉を知っているのは昨日服を買いに行った池袋で情報収集でもしたのだろう。不可解なのは、何故創始者をが知りたがるのか。 「・・・からその単語を聞くとは思わなかったよ」 「ちょっと、ね。解るかしら?」 「高いよ?」 「あら、じゃあいらない」 あっさりと引き下がる、探りを入れようとするとすぐにすり抜ける所も高校時代と何ら変わらない。どうせハッキングでもして自分で調べるのだろう。 の『開錠屋』はなにも車や住居、金庫の鍵を開けるだけの仕事ではない。それだったら非合法だろうと合鍵屋で事足りる。の鍵を開ける行為はそういったものも含まれるが、本命はネット上の開錠、ハッキングだ。本当にただ開けるだけの時もあれば、ハッキングされた事を相手に知られずに中身だけ頂戴するなど顧客の要望に応える。へ回す仕事は臨也によってチェックされ、彼女に通るものは好みのものに絞られるのでが解錠を拒否する事はまず無かった。 彼女が尊ばれるもう一つの理由は、彼女の仕事ぶりだ。中身がたとえ金塊だろうと死体だろうと核の起爆スイッチだろうとは開けるだけで中身に興味を示さない。開けるという行為のみを淡々と行うだけ。 余談になるが彼女曰く前二つは実際に目撃しているらしい。 「そうそう、そういえば私まだ聞いてないんだけど」 「なにをですか?」 「気付かないならいいの、私が勝手に聞きたいだけだから」 少し拗ねたようにむくれ、自分から離れるに苦笑した。理由くらいわかっている。彼女が痺れを切らすまであえて言わなかったのだ。 臨也も椅子から立ち上がり、彼女の正面に立つ。 「おかえり、」 「・・・ただいま」 どちらからともなく近付き、互いの唇を合わせる。 互いの目的は達成されていない。 この関係は、まだ続く。 |