慣らして捕らわれた、馴らして囚われた











は珍しく不機嫌という感情を表に出していた。
普段穏やかな生徒会長をここまで不機嫌にした原因を皆知っているものの、入学早々危険人物に指定された人物に接近できる者は教師ですら存在せず、固唾を飲んで見守っていた。
折原臨也。あの一件以来、毎日毎日何かしらの理由をつけての身体に触れてくる。例えば足元に転がってきたシャーペンを拾おうとした時、指先が。廊下ですれ違った時、肩が。が目線を合わせても彼は笑みを浮かべることもなく、さりげなく去って行く。その姿に思わず偶然で片付けてしまいそうになる。そういうささやかな触れ合いが毎日続き、の体力と精神力はここ何日かで確実に半分に磨り減った。










そんな事が数日続いた放課後。が屋上へ向かって一人で廊下を歩いていると、たまたま通りかかった空き教室のドアが開いた。延ばされた手に腕を引かれ教室の中に引きずり込まれたと思ったら折原臨也に抱きしめられた。抵抗すればすぐに離されるが平手を食らわそうとすれば避けられ、殺気を込めて睨めども人を食った様な笑みで流されてしまう。

「折原くん。あなた一体何がしたいの?」
「嫌だなぁ、ただのスキンシップじゃないか」

何を怯えているんだい?そう続け、更に口の端を歪める臨也の挑発にはもう乗らなかった。無言で教室を出ると手首を掴まれた。引き寄せられそうになったので踏みとどまる。いくら人気の少ない廊下とはいえ人前で弱点を晒されるなんて御免だ。空いている手で彼をの頬を叩こうと思い手を上げると、手首の拘束はあっけなく解かれた。

「止めてもらえるかしら」
「何故?俺が納得できる答えを用意してくれたら止めてあげるから理由を言ってくれないかな?」

会話を続けながらは目的地へ歩みを止めない。放課後、屋上に来て欲しいという手紙を貰ったからだ。それでも臨也はの横を歩く。まるで行き先を知ってるみたいに。知ってる?

「呼び出すのに名前を書かないのは失礼だと思うの」
「それでも向かうは律義だよね。呼び出された相手が気になる?理由なんて告白か決闘しかないのに?」
「人によって理由の検討が付くわよ。心構えも出来るし」

屋上に到着したが人の姿は無い。背中から鍵の掛かる音がしたのでが振り向くと、臨也がドアの前に立っていた。今日の手紙の差出人はどうやら目の前にいる人物で合っていたらしい。

「締め出されたのかと思ったわ」
「そんなことはしないよ。を閉じ込める鍵にしてはちょっと不十分だからね、それに気付いてるんだろ?俺が手紙を出した張本人だって」

クスクスと笑いながら臨也がへと歩み寄る、勿論ドアを背にしたままで。敵前逃亡というプライドに傷が付く行為と自称非力な平和主義者を撤回する行為、最悪の場合どちらかを選ぶしかないのか。

「用件は何かしら?」
はせっかちだね、もう少しお喋りを楽しんだらどう?それとも急ぐ必要があるの?例えば俺が怖いからこの場から早く逃げ出したいとか、俺の口を塞ぐ為に強硬手段にでようと思ってるのかな?」

目の前の男に完全に見透かされていた。見下すような笑みで近付かれても身動きができない。たった数ヶ月で私は折原臨也に秘密という秘密を暴かれた。逃げ出したいけどそれは恐怖から?怖いとは少し違う。でも怖い、誰が?何が?目の前の男はもう怖くない。
これは何だ。



嫌悪感は残っている。頬に手を添えられても恐怖より驚きが上回ったのか身動き一つ取れない。
一体この男は何をしたいのだ。何を望む、何を求める、何を欲しがる。疑問ばかりが頭の中に浮かぶが何一つ解らない。確かなことは、この男は、普通じゃない。異常だ。

「契約を、しようか」