「静雄、買い物付き合ってくれない?」 「先輩・・・その、格好は・・・」 知り合いが手を振り自分に近付いてくると言うのに、静雄の足は止まってしまって動かない。 昼過ぎに数年ぶりの邂逅を果たした自分より一つ上の女性は、自分が一番殺したい相手と同じ服を着ていた。 「臨也に借りたの。似合う?」 「似合う似合わない以前に殺したくなりますから今すぐ脱いでください」 青筋を浮かべ本気でキレそうな静雄に対し、はそんな姿すら懐かしいと言わんばかりに目を細めた。 「だから服選ぶの手伝って?」 「は・・・?」 聞けばは身一つで帰国したらしく、荷物は先程背負っていたリュックサックのみだったらしい。男女の差はあるものの背格好が似ている上肝心の女性らしいスタイルはコートで隠されており、が長い髪を後ろで一つに束ねてしまえば正直後姿など折原臨也以外の何物でも無い。正面から来てもらって本当に良かった。危うく殺す所だった。 「早く脱がせたいんでしょ?私一人だとどういう服にしたらいいか悩んじゃって時間かかっちゃうから、静雄にも一緒に選んで欲しいんだけど」 駄目?と可愛く小首を傾げるに静雄は本来なら喜んで承諾するのだが、いかんせん彼女の格好が格好なだけに、怒りを押さえつけるのに精一杯だった。しかし彼女の前でキレて公共物を壊すわけにはいかない。そんな事をすれば高校時代の二の舞だ。二十二にもなった今、それだけは避けたい。 「いいっすよ、今日は仕事も終わってますし・・・」 「ありがとう」 怒りを押さえつけ引き攣った笑みを向ける静雄に礼を言うの笑顔は高校時代と変わっていない。経過した時間により姿形からはあどけなさが取れ、可愛いより美人と形容するにより相応しい姿に変化したものの、おそらく中身はあのままだろう。あの、偽りの愛は変わっていないのだろう。 静雄は知っていた。後輩として、友人として、彼女に恋した一人の男として、と言う人物が人間を愛せないことを、愛そうと努力していることを。 静雄自身を『普通』と称し、愛する振りしか出来ないと寂しそうに笑う彼女の姿を記憶の隅に追いやり、目の前のと服屋へと歩みを進める。 「静雄は普通よ。だからこそ、私はあなたを愛せない」 「普通なんかじゃない!それに、絶対あのノミ蟲よりのことを・・・」 「静雄」 「・・・、俺は・・・」 「私は愛されたいんじゃないの。愛したいのよ。人間を、誰かを。私は愛する真似しかしてないの、私が愛そうとする努力を皆、愛されてると勘違いしていりだけなのよ」 「・・・愛してるって感情に違いなんかあるのか?」 「確かにそれもひとつの愛のかたちなのかもしれない。でも私にとってそれは愛じゃない。私は、静雄を愛せない」 俯き自分を見ようとしないに、静雄は彼女の考えが簡単に変わるものではないと悟った。それでも未練がましく自分の想いを伝えるようにそっと抱き締めると、彼女は一度肩を震わせたものの拒絶はしなかった。ただ、小さな声で「ごめんね」と自分に向かって呟いた。思えばあの時にはもう、静雄のの友人としての立場は確立していたのだろう。後の殺し合いの最中に臨也が、「に触れても平手打ちを食らわなかったなんてシズちゃんが一層憎らしくなっちゃったよ」などと言っていた記憶がおぼろげに存在している。 いつからだろう、自分を恐れず対等に接し、自分を叱ってくれる存在が愛しいと思ったのは。しかし彼女が選んだのは事もあろうにあの折原臨也。それも恋愛感情からではなく、が愛せるかもしれないと可能性を掛けただけの人間。互いの利害関係が一致したのだと彼女は言っていたが、二人は普通の恋人同士のように振舞っていた。彼らの本心を知る数少ない人間のうちの一人である静雄も、その事実を知らなければただの恋人同士にか見えなった。 「どうしたの?静雄」 「いや、なんでもないです」 いつの間にか先を歩いていたが振り返り、自分を呼ぶ。もう彼女の服装は気にならなかった。 愛されてはいなくても、こんな自分を『普通』と称し、友人と認識してくれるの決して幸せとは言えない純粋な目的を持つ歪んだ行為の為、内側に燻る記憶は思い出として大事に取っておくと決めたのだ。 翌日、あの平和島静雄と折原臨也が仲良く歩いていたという噂が池袋に流れ、それを耳にした二人が別々の場所でその噂を口にした人間を片っ端から潰していく姿があったのはまた別の話。 |