「静雄、臨也どこ住んでるか知らない?」 「か、会長!いつ日本に戻って来たんすか?」 田中トム、平和島静雄の前に現れた一人の女性。静雄の知り合いらしいが、臨也の名前を臆することなく出すだけではなく、天敵の名前を聞き流す静雄にも驚いた。 「知り合いか?静雄」 「高校の先輩っす。俺らの一つ上で生徒会長をしてたんすよ」 「始めまして、と言います」 トムに向かって会釈をする女性。海外に居たにしては簡易な服装とリュック一つを背負う彼女は今しがた帰国したのだろうか。姿こそ少しみすぼらしく思えたが、間違いなく美人の部類に入る。 「先輩、何であのノミ蟲なんかに用事があるんですか?」 「日本出る前にマンション引き払っちゃってて。残した荷物全部臨也に預けてるのよ」 天敵の名前が目の前の女の口から出てきたので田中トムは逃げる為一歩後ろに下がったが、そっと隣の男の顔色を見ると、静雄はこめかみに青筋を浮かべているものの、大人しく臨也の住所を教えていた。用件はそれだけだったようで、は静雄に手を振り別れた。 「珍しいな。お前が臨也の名前を出されてもキレないなんて」 「高校の時は会長の前でそんな態度取ったら即正座でしたから」 しかもあのノミ蟲の隣でですよ?なんて苦笑いをしている。 高校時代の折原臨也と平和島静雄を止められる人間が日本に帰ってきたといううことは、もしかして・・・ 「池袋に平穏が訪れるかもしれないな・・・」 わずかな希望が見えた気がした。 「諸君、青春の真っ只中にいながら、学問と規則に囚われる退屈な毎日へようこそ。しかし、それは決して憂う事ではない。高校の三年間というのは君達が生きる人生の中でとても短いが、一生残る思い出が山程待ち受けているだろう。ここ君達がでかけがえの無いモノを見つけてくれる事を切に願う!最後になったが、入学おめでとう」 入学式での言葉、マイクを通さずして凛と響く声、そして整った中性的な容姿は新入生の注目の的となった。は、自分の声と容姿が人目を引くことを知っている。 これを自惚れでは無く、真実として認識しているし、実際はその力で一年の終わりから生徒会長として裏から教師陣すら操っていた。 は気付いていた。新入生の中にそんな自分の言葉に全く興味を示さない人間が存在する事を、その中の何人かが、異常と呼ばれる部類に入っている事を。 折原臨也が取引先からマンションへ帰宅すると、そこには見なれない靴が一足。履き潰されてボロボロになった運動靴を見て思考を巡らす。心当たりは先程入った一人の女性が成田に降り立ったという情報。 「久しぶりね、臨也」 「これはこれは元生徒会長。いつ日本へ?」 「今朝よ。荷物を取りに来たついでにシャワーと服を借りたわ」 「腕は健在、と言うわけですか」 「お金無いからまた少し仕事請けるけど、問題ないわよね」 「勿論ですとも、先輩の『開錠屋』を心待ちにしているお客様は山のようにいらっしゃいますよ」 「そんな人間が山程いるなんて反吐が出るわ」 三つ預かっていた彼女の私物の入ったダンボール。そのうち一つからボロボロになったノートパソコンを取り出し開いた。 「駄目ね、記録すら見れないわ」 「必要なものがあれば用意しますよ?」 「ありがとう、じゃあお言葉に甘えて。最新型のノートパソコンと携帯、あと情報をいくつか」 「情報以外なら明日までに用意出来ますが」 「情報も明日でいいわ。今からちょっと出かけるから」 「おや、どちらへ?」 臨也が自分の服に問いかける。振り返るは視覚的には日本を出たときと何一つ変わっていなかった。 「服の調達に池袋へ。一緒に来る?」 「遠慮します。シズちゃんに会ったらいろいろな意味で苦労しますので」 「あら残念」 それにどうせ俺は荷物持ちでしょう?と言うと否定されなかった。クスクス笑う姿も変わらない、二年も会っていなかっただなんて嘘のようだ。 「そうそう、カード借りるから」 「・・・ここに住むならプライバシーという言葉を覚えてくださいね」 「あら、その言葉位知ってるわよ、私を誰だと思っているの」 「・・・」 いつの間にかスられていたカードをヒラヒラと見せるの背中にナイフの一本でも刺しても良かったのだが、死んで欲しいと思う程嫌いじゃない。 正反対の感情を持つ自分達の相性の良し悪しなんて考えるのはとうに諦めた。ただ、近くにいても不快ではない、自分が利用し、利用される唯一の人間、それがという人間だ。 「二人共、ちょっとここに座りなさい」 笑顔で廊下の端を指差すの右手は血まみれで、左腕は青く腫れ上がっていた。片方は静雄の投げた机を受け止めて、もう片方は臨也の走って構えたナイフの刃を握った為。 流石の二人も人一人巻き込んだままこれ以上事を進めることが出来ず、ただ立ちすくしていた。 「そんな事より会長!早く手当して病院に行った方いいですよ!」 傍観していた岸谷新羅が見てもは重傷だ。それでも感じるはずの激痛に顔色一つ変えず、寧ろ笑みを深めた。廊下に血溜まりを作りながらも右手は廊下を指す事を止めない。 「座りなさい、折原臨也、平和島静雄」 「「・・・はい」」 自身の体より説教を優先させようとするに気圧され、大人しく指差された場所に並んで正座をする。二人の仲裁に文字通り身体を張って止めたが教師に担がれ救急車で病院に行ったのは、三十分に及ぶ説教を終えた後だった。 |