溢れ零れゆく想いは何処へ流れて行くのだろう











入学早々俺とあのノミ蟲野郎、折原臨也との喧嘩を止めたのがとの高校での再会だった。
中学の時から何かと問題を起していた俺に、は俺の力を恐れた教師達に代わりいつも注意をしていた。
最初は彼女も他の人間と同じで、俺の暴力を見たら離れていくだろうと思っていた。だけど彼女だけは違った。俺の力を恐れることなく、優しく、諭すように自分を窘め続けてくれたのだ。
同じ高校に入ったのは本当に偶然だった。
再会早々彼女を傷つけてしまったことは勿論後悔している。彼女が俺の力で怪我をしたことは中学時代幾度もあったから。彼女は自分自身を傷つけてでも俺を止めようとしてくれた。本当は怪我をしないで止めることだってなら可能なのに、は俺に無関係の人間を傷つける恐怖を身をもって教えてくれた。今思えばそれは間違った行為だったが、それでも嬉しかった。
告白しようと決めたのはある事を知ったのがきっかけだった。
ノミ蟲がの周りを嗅ぎ回り、それにより彼女が珍しく憔悴していた事に俺は気付いたのだ。彼女が感情を表に出す所を初めて見た。俺の暴力を見ても受けても顔色一つ変えなかった彼女が、臨也の所為で、揺れていた。
それから数日後、二人が付き合い始めたという話が学校中を流れた。










「好きだ、

は俺がいつかそう言うことを知っていたかのように、表情を変えなかった。否、少し悲しそうな顔をしていた。彼女は俺の目を見て、それからゆっくりと首を横に振る。
キレる事は無かった。彼女は俺の力が怖くて首を振っている訳じゃないと知っているし、振られると薄々感づいていた。人一倍周りからの感情に聡いは俺の好意を知っていただろう。それでも尚、は自ら臨也を選んだのだ。

「静雄は普通よ。だからこそ、私はあなたを愛せない」
「普通なんかじゃない!それに、絶対あのノミ蟲よりのことを・・・」
「静雄」

窘める様に、が俺の名前を呼ぶ。
本当は、が人間という種に好意を持っていない事に気付いていた。それでも俺は知らない振りを続けて俺を拒絶しない彼女に甘えていた。は愛そうという努力を平等に送っていただけだから、は俺にも優しくしてくれた。
それを覆すだけの力が今の俺に無いことも解っている。それでも、声に出して伝えたかった。

「・・・、俺は・・・」
「私は愛されたいんじゃないの。愛したいのよ。人間を、誰かを。私は愛する真似しかしてないの、私が愛そうとする努力を皆、愛されてると勘違いするだけなのよ」
「愛してるって感情に違いなんかあるのか?」
「それもひとつの愛のかたちかもしれない。でも私にとってそれは愛じゃない。私は、静雄を愛せない」
・・・」

気が付いたらは俺の腕の中にいた。小さく震えているのは恐怖からだと知っていても、それでも触れずにはいられなかった。伝わらなくてもいいから、知って欲しかった。俺がどれだけの存在に救われてきたのか。たとえそれが彼女の偽りの愛だとしても、他の人間と同じ様に愛してくれた事が嬉しかったのだ。
そしてその日以来、俺は彼女を名前で呼ぶことを止めた。
本当に好きだった。でも俺は彼女を幸せに出来ない。好きだと口に出してから気付いたのは、俺が本当に望むのはの傍にいる事ではなく、自分を普通だと言ってくれた彼女の幸せ。誰かを愛したいという、彼女の唯一の願い。それが叶うのなら、彼女の為にあの男の存在を許そうとすら思った。それが、俺が彼女へ送ることの出来る唯一の愛情なのだろう。










決して、叶うことのない愛を送ることを、許された日。
あの日は振られたというのに、不思議と悲しい日ではなかった。