死刑台と愛しい彼女からのラブコール











「無様ね、火拳」

脱出不可能と言われる監獄の最下層に彼はいた。鎖に巻かれ、血を流して。もうすぐ形だけの会議が終わり、公開処刑の場所と日取りが民衆へ伝わる。世界が、大きく揺れる。

「無様ね、火拳」

彼女は一人だった。階級の高さ故か、誰も自分達の関係を知らないからか。多分どちらもだろう。白ひげ海賊団の二番隊隊長と海軍少将が関係を持っているなんて誰も想像しないし出来るものでもない。エースは顔を上げてを見る。いつもの笑みを浮かべて喋っていると思ってた。が、の顔には表情というものが無かった。



名を呼ぶ声が掠れた。
なあ。この身体じゃもう、お前を抱く事が出来ないんだ。

「貴方の公開処刑が決まったわ。海軍は厳戒態勢でそれを行う。きっと、戦争になるわ」

淡々と、座り込む自分を感情の無い瞳で見下ろす彼女は、相変わらず綺麗だった。感情が無くとも、近くで顔が見れて良かった。おそらく、これが最後の邂逅になるのだろう。
男として好きな女の前で無様な姿を曝しているが、嬉しかった。

「少将のお前が伝えに来なくても・・・下っ端を走らせればいい話じゃねェか・・・」
「そうね、この話はこれでお終い」

は檻に近づいた。手を伸ばせば届きそうな距離なのに。抱きしめられないのがもどかしい。

「私も、戦争に出るわ」
「少将だからな、当然だろう」
「死にたくないわ」
「奇遇だな、俺もだ」
「でも、きっと死ぬわ」

彼女はどちらが、とは言わない。一人かもしれないし、二人ともかもしれない。ひとつだけ言えるとしたら、二人とも死なないという選択肢が無いこと位だ。
もう、十分だ。
彼女の顔を見れた。もう彼女に未練は無い。残してはいけない。

「火拳・・・」
、帰れ」

突然、ガシャンと、牢の柵を掴んだ。囚人達がなんだなんだと騒ぎ出す。

「今、何て?」
「帰れ。お前の居場所はこんな所じゃない」
「帰れ、ですって・・・?」

がずるずると床に膝を付く。目線の高さが一緒になって、彼女の顔を正面から見た。自らの持つ悪魔の実の様に、瞳に炎を灯した。顕わにする感情は、怒り。
彼女の怒る姿を初めて見た気がする。

「冗談じゃないわよ・・・っ!あれだけ追いかけて来ていつもキスひとつ落としておしまい?奪われたと思ったら今度は今生の別れ?ひとを振り回すのもいい加減にして!」
「俺はあの男の血を引いてるんだぞ!」
「知ってるわよそんな事!この私を誰だと思ってるの?この若さであらゆる手を使って少将まで上り詰めたのよ!情報網だって半端じゃないわ、舐めないで頂戴!!鬼の子だろうが海賊だろうが反吐の出る憎き能力者だろうが私が愛したのは貴方よ!ポートガス・D・エース!!」

息が切れる程声を荒げだの愛の告白に周りの囚人が歓声と野次が飛ばす。海軍将校とこれから処刑される海賊の恋だなんて見世物以外の何者でもない。
周囲を気にもせず見つめ合う。エースが自らの思いを伝える度に困惑した、泣きそうな顔しかしなかったの身体の内側に宿す炎が、自分と同じ事にようやく気付いた。

「ねぇ、火拳のエース」
「何だい、少将?」
「私の事、どう思ってるか言って」
「後悔、しないのか?」
「後悔?後悔なんてとっくの昔にし終えたわ」

少し無理をしていたがが笑う。そうだ、それでいい。彼女は笑ってる方が綺麗だ。

「なあ、
「何?」
「お前を抱きたくてしょうがねェんあの夜みたく・・・誰にも、何にも邪魔されないで、お前を抱きながら好きだ惚れてるんだ誰よりも愛してるって叫びたいんだ!!」

掠れた声で絞り出される愛の言葉。こんな状況に陥らなければ一生隠したはずの想い。

少将、お戯れが過ぎますよ?」

いつのまにか、の背後にマゼランが立っていた。

「こんな映像が他所に漏れたら降格どころか軍法会議になります」
「あら、そんな事したらこの檻、壊してしまおうかしら」

の言葉と同時にパキリ、と嫌な音がする。
マゼランが音の出所を探ると、が握る牢の冊からパラパラと破片が落ちていた。とてつもない硬度を誇る海楼石の牢を壊せる人間は少ない。壊せる実力を持っている者の殆どが能力者だという事もあるが、それを差し引いても世界中に数える程しかいないだろう。その点においては能力者ではないし、海楼石を自由に扱える特殊な立場の人間、海楼石を砕く術も知っている。

「他言無用に、して頂けるかしら?」

二の句の告げないマゼランを残し、は踵を返した。不敵な笑みを浮かべ地獄を風をきって歩く姿に囚人達から再び歓声が上がった。















僕は満たされる



「次は処刑台で会いましょう、愛しい人」