長引いた会議は日付けが変わる頃に終わり、は一日振りに自室へ戻った。海の上でも陸に上がっても目を通さなければならない書類の山が一向に減らないのは、の所為ではない。上に一人、書類整理を全く行なわない上司がいるのだ。 「"英雄"も書類の前では形無しね」 呟いただけなのに書類を嫌がる顔を思い出したらは思わず笑ってしまった。 その代わりといっては何だが、中将には随分融通を聞かせてもらった。誰かの後ろ盾が無ければいくら代々海軍将校を務める家系だろうと"能力者殺し"の名を広めてようともこの歳で少将にはなれない。 はシャワーだけ浴び、バスタオルを巻いただけの姿で寝室に入った。 ドアを開けた途端人の気配を感じ、思わず身構える。無人である筈の部屋の窓は空いており、窓枠に人がもたれ掛かっていた。逆光だがシルエットで誰だかわかった。顔見知りだったが緊張は解かない。相手は、海賊だ。 「何しにきた、火拳」 寝室に入るまで気配は無かった。ここが自室だからと気を緩めていた訳でもない。一体いつから、どうやって此処へ。そんな問いは後まわしにして、は部屋の灯りのスイッチに手を伸ばしたが、音もなく移動したエースに手首を掴まれそれを阻まれた。 「何しにきた、火拳」 目を合わせ睨み付け、はもう一度問う。エースからの返事はなかった。 は片手を掴まれ、もう片方の手は胸元でタオルが落ちないように抑えていたが、その手も壁に縫い付けらた。身動きが取れない。暗闇の中、エースの表情が読み取れないのに、鋭く、刺すような視線だけが痛い程感じられた。短い沈黙のあと、ぽつりとエースが口を開く。 「奪いにきた」 何を、と問う前に唇で唇を塞がれた。 今までエースにされてきた優しいキスとは全く違う強引なキス。口内に捻じ込まれる舌に舌を絡め取られ吸い上げられる。から思わずくぐもった声が上がり、上手く飲み込めなかった唾液が口の端から溢れ出る。角度を変え、何度も深く口付けされ脳に酸素が回らない。頭がクラクラしてきた。 ようやく唇が解放された時、は身も心も丸裸になっていた。手首を解放されると、重力に抗えずズルズルと壁伝いに座り込んでしまった。そんなを無表情で見下ろすエース。 開け放たれた窓から風が入り込み、おもわず身震いしたをエースは肌蹴たタオルごとそっと抱き上げた。 「」 これは夢か。 身体をベットに置かれ、押し倒すように覆い被さられる。耳元で囁かれる甘い声、貪り食う様な荒々しいキス。私がずっと欲していたもの。望む事すら許されなかったこと。海賊と海軍。道が交わる事はあっても、決して重ならない位置に自分達はいた。筈なのに。 「今だけでいい、俺のものになってくれ、」 エースのを見つめる眼にはいつもの余裕が無い。驚きの余り声が出なかった。目の前の男に返事を、しなければならないのに。 「愛してるんだ、」 「エース・・・」 初めて、彼の名前を、呼んだ。 エースもその事実に気付き、酷く優しい笑みを浮かべ、の首筋に顔を埋めた。 |